「今は、まだ体が体調不良を認識してないと思う。ここから徐々に寒気がしてくるから…。ユニフォーム脱いで、着替え…られるね？うん。一番下は温感素材じゃなくて綿シャツね、とりあえず上5枚は着て。ポカリ買ってくる。あと嶋田さんと、」
「おぉ美雪、マネージャー。ここに来て悲願達成」

二人マスクをつけ、出入り口に向かうと。
タタタッと特徴的なプリン頭がやってきた。
思わず私も浮ついてた足を止めた。

「！研磨」
「……どう、して」
「ともだちたちを励ましに来た」

私たちをみてふふっと笑う。
いつも通りの優しい研磨につい、うるっと来てしまった。何だよ、スゲーやつだな……研磨。

「…研磨、試合見れるようにできる？」
「ウン。貸しに来た」
「…言うまで隠してんの」
「へへ」

「…端末パスは？」
「1111」*1
「……simは？」
「ない。……使える？」
「うん大丈夫。テザリングする」
「？？？」
「…大丈夫、翔陽。見られるよ」

「行ってらっしゃい」
「行ってきます」

研磨の激励を受け、私たちは『試合に戻る』。

「タクシー呼ぶ！！」
「あれっ車で来てないんです？」
「……駐車場超遠いんです！！！」
「費用対効果ってヤツですな……呼びました」
「早ッなんで！？」
「秘密は滝ノ上さんに聞いてください。5分後です。病院どこにします？」*2
「えっキミの親んとこは？」
「………あっ宇内東京院。……失念してました」
「美雪、大丈夫？」
「……翔陽……実はあんまりかも」
「面白。体調不良は二人？？」

むっ慌てて忘れただけだし…！
しかし、翔陽に笑われて……。
緊張と焦りと、少々の悔しさで視野が狭くなっているのだと気付く。

拳を握りしめた。

……なんでだよ。
もっと強い解熱剤を渡せば良かったのか？
例えば昨日の夜。どうでも良い話なんてしないでさっさと寝るように連れて行けば。
……もう、もう…もう！！


「……あ！！ココですココです！！」
タクシーが来たので嶋田さんは手を挙げた。
3人で乗り込んだ。

「こんちは、どちらへ」
「失礼します。宇内病院、お願いします」
「「お願いシャス」」

研磨からお借りしたタブレットを使って生放送を起動した。
「翔…………」
「………、、、………」
翔陽がまるでその場にいるかのような集中力でタブレットを凝視していた。

「……ん」

私は話しかけようとした口を閉じた。



————————————
*1原作時間軸当時のiOSはパスコード4桁可能
*2タクシー配車アプリって便利ですよね