コタンコㇿ カムィ オプニㇾ
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由紀はとても暗い遊びをしていた。
30年式の弾を机に10本並べてオハジキでコンと弾いて倒しては並べ、倒しては並べを繰り返していた。
「それ、楽しいのか?」
「いやあんまり」
「だろうな。……何があったんだ?」
函館を出て以降、一番落ち着かない様子なのはアシㇼパではなくむしろ由紀だった。飯も普段食べる量より少ないし、表情もどこか呆けていた。
アシㇼパの心配するような声を受け、由紀はため息をついて、アシㇼパに話し始めた。
「白石さんに好きって言われたんよ、それはまあいいけどさ……」
「!!」
「白石さん適切な距離感を保ってくれていたからね?……まあ安心していたんよ。だから、付き合ってって言われると思わなかった。私は男女の友情って成立するんだなって思い込んでた───。白石さんは知り合いの知り合いってところからだんだんと仲良くなってったし…………勝手だけどね、仲のいい友達が減っちゃったって思っちゃったのよね」
「残念ながら白石はかなり前からお前のことを女として見ていたぞ。むしろ、手前勝手な友人関係を白石に強いていたのはお前の方じゃないのかぁ〜?」
「えっ、都合の良い関係性を私が押し付けていた……?」
アシㇼパはニヤリと笑って、由紀の脇腹をくすぐった。
「いい大人が長く一緒にいてくっつかないっていうのは逆に不健全ではないだろうか?お前は見て見ぬ振りが上手だなぁ〜?由紀〜?」
「いやまあそれはそうなんだけどさ!!?ふは、やめ……やめなさいッ!」
由紀はくすぐり攻撃から逃れるため、脇の下に手を差し込んで持ち上げるので、アシㇼパはムッと口を窄めた。
「ぶっちゃけます。アシㇼパさんは杉元さんのことが好きなんでしょ?私が白石さんと消えた方がよくない?」
「お、お前までそういうこと言うのかッ!?」
「当事者を無視してソレ吹き込んだやつが他にいるのか。……まあ、色々誠実じゃないもんな私」
由紀は自嘲するように笑うと、アシㇼパは首を振って否定した。
「いや。お前がそう思うのも無理はない。杉元は私を父の真実へと付き添ってくれたし……ずっと約束を守ってくれていた。私の作ったご飯をいつもヒンナヒンナと言ってくれたから。でも、私じゃ杉元を…………」
ここでアシㇼパはごくりと唾を飲み込んだ。
「あいつの心は戦場にあって、いつも気を張ってる。───あいつは私がいると“強い杉元“で居続けようとしてしまう。“不死身の杉元“をやめさせられる人間は多分、私じゃない」
「そ、うかな……私も違うやろ。弱音なんてほとんど見せてくれない人だよ。もう大丈夫だよって言ってあげられるのは、君しかない」
「由紀はひょっとして、杉元に私のことをどう思っているのかを聞いたのか?」
「いや、聞いていないよ」
「それに、私はもういいんだ。───子供だから」
「!!」
「5年もすれば世界中の男が私のことを放っておかないからなッ。だろう?」
「だっだよね!今は子供扱いされても数年経てば…………」
「やっぱ訊いただろ、由紀お得意の誤魔化しは私には効かないぞ」
「ぐっふううぅ」
ブヒいいぃと口から汚い液体を出して由紀は白状した。気の使い方が明後日の方向すぎてアシㇼパは呆れたように笑った。
アシㇼパは写真館後のことを話し、由紀はアシㇼパのことを杉元はどう思っていたか直接聞いた時の話をした。
「まあ、ウイルクさんもわざわざロシア領からリラッテさんと結婚しに行ったものね。お母さんそっくりのアシㇼパさんだもの、どんな人が恋を囁きに来るかは先の話か」
「由紀を見てたら、面倒臭いものだなって思ったしな」
「おいそれは風評被が……いや、そうでもないか。よっしゃ、じゃあ決めた」
「何?」
「私がアシㇼパさんをさらなるモテ女に……アイヌ人初のファーストレディーになれるかも人に仕立ててしんぜよう」
「ファー、何?」
「総理大臣とか天皇とかすごい人とも付き合いができる女のこと。別に結婚相手に選べというわけじゃなくて、そういう人とも対話ができればアシㇼパさんの世界は間違いなく広がる」
「なんだか壮大な話になってきたな。別にいらないぞ」
「アシㇼパさんは頭がいい。口頭では議論ができるんだから文字でも議論できるようになればアイヌをもっと守りやすくなるよ」
「!手紙か」
「そう。簡単に会えない人にも手紙なら声を届けられる。あとはそうだな〜基本的な四則演算だけではなくて、エノノカさんみたいな数学もできるようになると相手の望むものを察するのが楽になるしー……。英語ができたら、今以上に助けになることは保証する」
「ちょ、ちょっとやめてくれ、あんまりやりたいことじゃないッ!!由紀とは狩猟仲間がいいッ!!」
「……まあ、それはやるけども、多くを守るためには子供のままじゃいられないってことは知っているでしょ……」
由紀が顎の下をさすると、アシㇼパは立ち上がって由紀の頭の上に手をのせた。
2人は口の端を持ち上げて笑う。
「じゃあこれからもお前は私と一緒だ。別行動しようとか、弾除けになるとかはもう言わないよな」
「そうだね。またやりたいことできてしまった」
アシㇼパは由紀の耳を触ってそして右目があったところを触った。
「お前が幸せになれるか不安だ。役割とか使命とかそういうことを考えずに、横で笑っていて欲しいんだ」
「アシㇼパさん……」
「お前のトランプはお前が生きのこることの証明だった。……けど、やっぱりそれを見届けるのは他の誰でもなく、私でありたい」
「?」
「いいんだ、こっちの話だ。それで?」
「それでって?」
「お前はどうなんだ、誰が好きなのだ?シライシがダメなら月島軍曹か?」
きゅっとアシㇼパに寄られて由紀は後ろに下がろうとしたが、顔が固定されて動けなかった。
「幅寄せやめて?……月島さんは、好きにはなっていけない人、かなあ。幸せになって欲しかったのに彼の一番大事な人を奪ってしまったし……今更どのツラさげてって私も思う。合わせる顔がないや。杉元さんは、杉元さんはーッ」
「…………」
「おい、なんだその目は??やめろ笑うな。…………わ、私は。人を好きになるには少し時間を要するんだ。自分を好きって言ってくれた人は悉く死んでったし、恋愛恐怖はある」
「いやもう、あいつどうあっても死なないんじゃないのか?傷を負うたびに生命力に溢れるシサㇺ私見たことないぞ」
「いや、私もそれ思うわ。何度戦っても秒で諦めちゃう、私も結構強いつもりだったのに…………」
「さっさと杉元と子供でも作ってしまえ、あいつはお前を愛してくれる」
「…………どう、かな」