コタンコㇿ カムィ オプニㇾ
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金塊争奪戦から時は1年と少し流れた頃。私たちはアシㇼパさんの故郷、オタルのコタンで結婚式を挙げることとなった。
フクロウ送りの儀式を行い、そしてその後には一杯の飯を2人で分け合って食べる予定だ。
「丸太を十字に組んだ中央に、コタンコㇿカムイの両足を縛って結びつける。丸太は相撲の優勝者たちが4人で四方を担ぎ、上下に動かしながら広場を回る」
「お神輿みたいだ」
「そうだな、シサㇺの神輿は私も見たことがある……丸太の周りはメノコたちが取り囲んで手を打って唄う。するとコタンコㇿカムイは翼を広げる。ここで注意点だ。ここでは“ホパラタ“、鶴の舞は決してしてはならない」
「どうして?」
「コタンコㇿカムイは自分より翼が大きいものを嫌がるから。嫉妬してしまうんだ」
「へえ〜……」
「ヌサ(祭壇)を背にして、いよいよスクㇷ゚(青年)がコタンコㇿカムイの背中にエペレアィ(花矢)を撃つ」
ヒュンとボウタロウがフクロウを射った。見事命中!さすが優勝者である。
「バサバサと羽をばたつかせている。花矢では殺しきれないよね?どうするの??」
「この後、レクチヌンバ(絞木)で絞殺する」
「ひえっ」
アシㇼパさんはにっこり微笑んで首に縄をかける仕草をした。お、おう……。
コタンコㇿカムイは逆さまに吊るされて、ヤナギの木の下に吊り下げられた。
「コタンコㇿカムイが動かなくなったら、カムイノミを行って、イリ(皮剥)とオシケサン(解剖)に移る。骨と内臓を取り除き終わったら、イナゥを埋めて祭壇に供えもう一度エペレアィを射る。最後にフチたちが作ったお酒や飾り付けを並べたら酒宴が始まるんだ」
「わあ……!!」
火が焚べられて、明るい夜が始まった。
私たちは次なる儀式のため、それぞれフチの家に入る。
「じゃあ、次はいよいよお前たちの宴だな。杉元、由紀、道具は持っているか?」
「う、うん…………!」
「がんばります」
「まず、杉元は由紀にマキリを渡すんだ」
「そして私からは私が藍染した布に、紡いで作った刺繍テクンペ。可愛いでしょう?」
「アシㇼパちゃんのメノコマキリを参考にしたらしいけど……」
「幼児の工作と、お母さんの夜鍋手袋の交換か……?」
「そこッうるさい!!練度が違うんだよと由紀さんとはッ」
「そういう言い訳するあたりがねえ」
「ねえ」
白石さんとボウタロウがニヤニヤコソコソしながら杉元さんを揶揄うので谷垣さん鉄鎚が2人に下された。
私は杉元さんのマキリ、これからどんどん使っていこうと思うよ!
この後花嫁の親がアイヌ語で火の神に祈る。フチが私の親の代わりを務めてくれると言ってくれたので感謝しつつお願いした。腰には一本の紐(ウㇷ゚ソㇿクッ)を結んでもらって親から娘への儀式が始まる。
タパン アスㇽアㇱ アイヌモシㇼ(この噂に名高い北海道が)
タㇷ゚ アッカリノ(これから先も)
シピラサ エカㇱカイ クニ (大きく発展するように)
カムイ ウタリ ネンポカイキ ウコサンニョ ワ ウコラㇺコㇿ ワ(神々はなんとか相談して取り計らい)
シサㇺ ネヤッカ アイヌ ネヤッカ (和人であってもアイヌであっても)
ピㇼカ スクㇷ゚ アキ クニネ (素晴らしい成長ができるように)
ウタㇻ クㇽカシ チセ クㇽカㇱ (人々の上に 住居の上に)
イクㇽカシケ ワ イエプンキネ イキ クニ(わたしたちの行く末を見守ってくださるよう)
オトゥスイ イレスイ タㇷ゚ネカネ (二度三度もこのように)
オリパㇰ ケウトゥㇺ トゥラ (敬愛の念と共に)
ヤイライケ ケウトゥム トゥラ(感謝の気持ちと共に)
タパン イノミ イノミ ネマヌㇷ゚ (この祈り、祈りごとというものを)
チャナン イノミ クイェ オケレ ハウェ ネナー(拙い祈りごとを、私は言い終えます)
結婚衣装は、新郎側は刺繍の入った着物を着て、頭にはサパンペ(冠)を装着する。新婦は着物を着て、頭にマタンプㇱを巻いて、首にタマサイ(ネックレス)を下げた格好をする。まず花嫁に当たる人はほかほかに炊いた飯を椀に高く盛って、花婿に差し出す。花婿はそれを半分掻き込み、半分を花嫁に返す。最後に花嫁が残りの飯を食べたら終了となる。
「(育ての神様、貴い神様、あなたのみこころに礼拝申し上げる次第であります。今ではもう新しい夫婦が結婚し、そのための契りの食事、地祇の飲酒を終えました。人間だけが見ているのではありません。神様も見ていたのです。いつまでも新しい夫婦が健やかな体を持ち、幸せに仲良く暮らすことができるように、よくよくお守りください。先祖の言葉、昔の習わしをよく知らないものでありますが、なりゆきによって遠慮しながらでありますが、神への礼拝を私が行うのです。その次にみんなの身の上を神様が見守り、ともに豊かに暮らすことができるように、よくよくお守りくださるよう神々におはかり申し上げる次第であります。神様に感謝を申し上げます。大地を司る女神よ、ありがとうございます)」
厳かでありつつも暖かいしきはこれにて終了。晴れて夫婦となったわけだ。
えへんと、咳払いが白石さんから聞こえてきて、全員の視線が白石さんにいった。
「どうした?オソマか?もう終わったからいっていいぞ」
「俺をなんだと思ってんのよ。…………えー、諸事情により……ご不在の方々よりお手紙を賜っております」
「え!?誰?」
「心当たりない…………」
私たちが2人して首を振ると、白石さんはえへんとまた咳をした。
「第7師団、鯉登中尉殿!」
「え??」
「おほん、“佐一殿、由紀殿、ご結婚おめでとうございます。友人代表としてお祝い申し上げます“」
「……?なんであいつ友達ヅラしてんの?」
「シッ、そういうのは今良いから」
「“出席できず申し訳ございません。私が不在になると部下に追いかけて来られると思いましたので、涙を飲んで欠席とさせていただきました“」
「(多分、月島軍曹のことだ)」
「“お二人の未来が素晴らしいものでありますことを心よりお祈りいたします。───追伸、第7師団は人材募集中。私は犯罪歴や生まれは気にしない。有能であればどんな奴でも大歓迎だ。後杉元は私を刺したが特に根には持っていないので、金に困ったら夫婦揃って雇ってやろう。履歴書は我が家の住所に”」
「もういいもういい!!!なんだこれ、後半まともに祝ってねえじゃねえかッ!絶対根に持ってるだろ!!」
「実際私たちが第7師団に面接に伺ったら、多分鯉登中尉とても困るだろうに……。嫌味の一つや二つ杉元さんに言わずにはいられなかったんだろうなァ」
白石さんは鯉登さんの祝辞を暖炉の火に放った。
キエーという幻聴がしつつも手紙は小さくなっていった。
「…………まあ、ともあれ今後ともよろしくな」
「うん。よろしくお願いいたします!」
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ヤマナシオチナシイミナシ
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