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私はふうとため息をついた。
先に酔い潰れた白石さん、引きずって寝床に運んでいったアシㇼパさん。あれは多分そういうことなんだとすぐに察した。
ここまで年下にお膳立てされるとは本当に情けない限りだが。ここで私が選ばなければ、ずうっと半端な関係が続いてしまうと自覚していた。これではダメだった───正しくはないと気づいていた。
「杉元さん、空いているね。注ぐよ」
「お、本当だありがと。じゃあお返し」
「うん」
お猪口に注がれるそれをクイッと飲み干して、その人をじっと見た。
白石さんがかなり酒を飲ませたので、目がぼやぼやしている。せっかく入れたのに大半こぼしている。
「佐一」
「……何?」
「嫌だったら、跳ね除けてね」
私はグッと体を寄せて彼の胸に飛び込んだ。押し倒すような形になり、お猪口は床にひっくり返った。
そして酒で湿らせた唇で、彼の口を奪った。
「!んんッ」
目を白黒としている中、頭の後ろに手を差し込んで固定して角度を変える。酒の匂い、魚の味……奥の方にある、情欲を引き出すように舌を動かした。
やがてぐいっと、肩を押されて私と彼の繋がりは解除された。
「いや?」
「じゃないけど。なんつうか、違うじゃん。嬉しいけど、今そういうのは困る……」
「そうかぁ、困っちゃうか」
「……そんな顔されたら、悪いことしているみたいだな」
私は、今まで訊けなかったことをついに問い詰めるチャンスを得た。
「どうして佐一はあれ以来、手を出してこようとしない?辛いと思っているなら力になると言っただろ」
「そんなのさ……都合が良い時だけ、由紀さんを利用する薄汚いヤツって見られたくないからだよ。男の矜持、一生懸命保ってきたんだよ……」
「……!」
「君は前、抱かれた時も……俺が罪悪感を持たないように、優しくしてくれたから」
「それは、なんというか私の方が不用心かましたし、なんなら私が煽っただろ……?」
記憶は定かじゃないけど、元童貞?の彼が自分から襲い掛かるとも思えないので多分きっかけは私からだと思う。
あれでおわったら道中ギクシャクすること間違いないし、毒を食らわば皿までの精神で細心の注意を払ったのは多分間違いじゃないと思っている。
「すべての決着を済ませてからって考えると、あれもこれもってやりたいことがどんどん溢れてしまうんだよ。今答えを聞かせてくれ。……今すぐ私とヤるか、不死身の杉元を続けるか、だ」
もしその答えが“杉元さん“であるならば私はここでアシㇼパさんとの約束を違えることになる。仕方がない、彼の気持ちを最大限尊重すると決めたからそれに異論はない。だがもしそうではないならば。
「…………」
「…………俺は、不死身の、」
「ん」
唇が震えて、私はじわっと涙が浮かんだ。
「───杉元だった」
「!!」
私はすごい力で押さえ込まれて上からぎゅうと抱きしめられた。
「泣くなよ、由紀。俺は、あんたが笑っている顔が好きだ───」
「っぐ、だって…………だって不安だから!一番に私が居るなんて、思えなかったから…………!!」
「自分が一番じゃなきゃ嫌って素直に言えばいい。…………我慢したら肌理に悪いだろ?」
「もう守る肌もねえわ、ばかやろ!」
ぎゅうと2人抱きしめて思いを重ねた。
▼▼
「ところで酒に酔わせて男に寄るって、若干手慣れているようで腹立つんだけど」
「えっ、そこ気になっちゃう?」
「なるなる。ちょいと聞かせてくれないかい……まずは月島軍曹だ」
「ほあ」
「枕を共にしたことはあったか」
「ないです。あの、すんません」
「なんですか」
「やめん?こういう話…………これ以上掘っても絶対に幸せにならねっすよ」
こういうの聞き出すの炎上案件よねえ。どうしたものだろうかと思ったので、私はお口チャックを求めた。
プラトニックな関係でいた人もいるけれど若干隠したい人もありけり……。宇佐美さんのあれは広義ではセックスか否か問題もある(ない)。
「…………敵だらけの中で女の人1人が生き残るのは大変ってことは理解してる。初めて一緒に野営した日のこと覚えてる?うっかり脱がせちゃった時」
「ああ、ヤマシギの」
「出会った頃の君は、俺と違ってほとんど傷のないただの女の子の体だった。けれど、鯉登少尉に肩を撃たれて、頭巾ちゃんに耳もあげちゃって、月島軍曹に太ももを撃たれて、そんで極め付けが尾形に目も奪われた…………毎回別の誰かを守るためにすり減っていくところを見るのは辛かった」
「それは、私がちょっと油断しいなだけやて」
「俺が、」
「?」
「俺のは全部綺麗に治ってるのに、なんでお前らは消えてくれねえんだ」
「!」
「うう、うぅ…………こんなの、嫌だ…………俺は、俺は大切を守る男だったはずだ……杉元佐一!!」
「…………仕方がないな、」
杉元佐一が抱えこんでいた黒い澱みを少しだけ掬ってみる。
私は彼の背嚢から小さな折りたたみナイフを取り出して手渡した。そして私は帯を緩めて、羽織っているものを解いた。
突然脱ぎ出す私に彼は首を傾けていたが、やがて何かに気付いたのかこちらを見た。
「私、自傷癖はないけれど……佐一なら好きなところに───」
「………………」
彼は喉を少し嚥下させて私の体を上から下まで見た。
手を広げて「好きなところ、食べていいよ」と目を閉じた。
しばらく何も起こらない時間が数秒過ぎて、そろっと滑ったかと思ったが、どんと力一杯壁に躰を押し付けられる。
「い゛、」
胸の谷間、まあありていに言えば心臓の位置に牙を立てて噛みつかれた。
ナイフで心臓刺されたらさすがに死んじゃうかなー……。まじでそこが一番目ならまあ、いいけどさ……。
「ふーッ、…………ふー……、ねえ、いいの?」
「いい」
「血、出ているよ??」
私がゆっくりと目を開けると、爛々と輝く視線と交差した。この目は覚えがある。何かのタガが外れた時の佐一だ。でも放つ言葉は嫌に優しい。
どういう感情なのかよくわからないけれど、理性と獣が同居したまま生きた人というのはこういう感じなのかもしれない。
「そうしてっ、て私が願った。杉元佐一から疵を、もらってみたい」
「…………困ったなぁ、俺の好きにさせてもらったら、今度こそ由紀さんを壊してしまいそうだ」
べろっと真新しい胸のキズに口を寄せられ、くすぐったさに歯を食いしばる。
別にこのまま続けてもいいけれど、明日アシㇼパさんにおはようって言った時に、「ヒグマと戦ってきたのか!?本当にどうした!?」と仰天されそうである。
「後ろ向いてくれるかい」
「うん」
髪の毛を片方に寄せて、首が見えるように晒すと案の定うなじ付近をガブリ。
家永さんや頭巾ちゃんに割と狙われた箇所である。この部位は他人の評価が高めな気がする。
「なんでここなんだろ?」
「……由紀さんの匂い?そういうのが強い場所かも。由紀さん、いつも直ぐに消してしまうから」
「ああ、服の話?人間の匂いがしたら、獣はすぐに逃げてしまうからね……」
自分から父親の匂いを感じるとあの時を思い出してしまい少しだけ嫌な気分になる。匂いを気にしてすぐに服を捨ててしまうのも自分の体臭を嫌ってのことだ。まあ自分にとって苦手な匂いが人にとってもそうとは限らないものよな。もう自分は獣を取ることは難しい、きっとその匂いが常に漂うことにもそのうちに慣れてしまうのかもしれない。
「刺す場所、決まった?」
「うん、決まった」
「じゃあ。どうぞ、」
杉本佐一は、ナイフを仕舞ってぎゅうと抱きしめた。
「残る傷に拘らなくていいや。……消えたらね、またつけることにした」
「そっか、そういう道もあるんだね」
何かとてつもなくおかしなことをしているなと思って、2人して笑った。