30.さよならの笑顔をキミに
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設定主人公: 宇内さん
性別:女
クラス:県立烏野高等学校 1年1組
好物:鶏肉の炭火焼き
最近の悩み事:宮城王国ではカード決済がだいたい使えないこと。さらに登校前と下校後、土日いずれも銀行が空いてないこと。
「小さな巨人」の親戚。運動は苦手。
特技は世話焼き、対年上の振る舞い、念動力の三つ。
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救護室はまた父の当直だった。
は?東京じゃなかったの??
「「またか」」
「何でまたいんの」
「昨日すぐ東京行って夜会食……そのまま寝て、早朝空便で宮城、コレが終わったらすぐ大阪本院だ。俺をしこたまホメろ」
「ホントおつかれ。じゃあお父さん。……診て」
あらまあ、激務。ブラックは大変だ。
医者目指すのやめようかな。…冗談はさておき。
「「お父さん」」
月島兄弟は私たちの応酬にツッコミを入れた。
似てるだろ?父親似なんだ私。
「……あぁ、父ですドーモ。烏野ケガばっかだな。症状報告は?……まあ、みりゃわかるか。小指脱臼に裂傷か」
「塞いで圧迫、なる早お願いします」
月島君は父に早口で希望を伝えた
「あ??今日まだ出るつもりなんか??…フツーなら紹介状で即病院送りだが?」
「いえ……出ます」
「ココでは治せないがいいのか?」「はい」
「OK、急ぎね……美雪も手伝え、場所指示するから」
「……はーい」
聞きそびれままだけど、試合には間に合うセット数の点数なんだろうか。いやそんなことを考える暇はないか。私のやれることをやるだけだ。
ここに必要なのは脳じゃなくて手数だ。
「……ええと、月島さん……お兄さんの方、代筆で良いです。受付票を書いてください。怪我してる方の月島さん、ゴムまたはアルコールのアレルギーはないですよね?」
「ないです」
「お父さん、ガーゼとラテックス使うね」
「ん」
水で両手を洗って殺菌。能力を発動させて父に意識を向けて彼のやりたい事を探す。
父の知識のページから、辞書をめくるように今後の治療方針を読み取った。
ラテックス手袋を付けて、月島君の右手を借りて脱脂綿で傷口以外をふき取る。
そのまま手首を掴んで、止血点を抑えた。
「美雪ちゃん、傷口は押さえないの??」
「……ああ、それは古い治療法なの。マキロンとか患部に付け揮発させるとジクジク沁みたでしょ?あれは体に良くなくて治りも遅くなる。モイストヒーリングが今のスタンダード」
「へえ」
「……美雪。それくらいでいい、テープ貼ります」
「はい」
止血点から手を離して父に引き継いだ。
「受付表、記入しました」
「ありがとうございます。お兄さんもすみませんがお手伝いを。テープだいたい10cmの長さで、5本切ってください」
「あ、はいっ」
「美雪。棚からセラキャスト」
「わかった………ええと、これだね。濡らすボウルどれ使えば?」
「上から3段目その中の小さめのやつ」
「あった」
キャストとはプラスチックとガラス繊維から構成される、骨折や疼痛のある捻挫を固定するためのギプスのこと。粘着性があり、水と接触すると硬化が始まるアイテムですね。固まったらお絵描きできます。
「………(蛍、冷静というかすごく集中している)」
うわ、父から意識を外すと明光の声が聞こえる……。オフ!成功!!
「……宇内さん」
「うん?」「はい、なんでしょう?」
私・包帯巻き中の父、両方とも反応した。
月島君は、片眉をくいっと上げこちらを向いた。
「美雪の方……ねえ、これ。戻ったあと、チャンスだよね?」
「あ?……ああ!……クロス塞ぎ→ストレート止めね!」
「そう」
月島君の言いたいことへ辿り着くことに成功した。
確か、昨日の夜の山口君と離していた時のやつね。
「でも……今それこだわる?高さも速さも必要だし、何より小指の先端まで力を込めなきゃブロックはとてもできない。できんの?その指」
「やる」
「……そ…っか、じゃあできるね」
私にはやれるかやれないかは正直分からない。
だが本人が出来るなら、やるんだろうな。
キャストを巻いてちょっと待つ。
気持ち程度だが、硬化を待つ間は氷を当てて指を冷やす。
「……月島の……ええと蛍の方」
「……んっ」
「呼ぶのややこい場なァ」
明光が笑いながらいう。宇内が2名、月島が2名。ホントよね。私は薬の入った瓶を指す。
「ロキソプロフェン……痛み止めは使う?……効き始めるのにちょいかかるけど…」
「いや、いらない。間に合わないし、指の感覚が鈍る」
「分かった」
茨の道だよ、そっちでいいのね。
「お父さん。テープできました………うーん親子で治療、すごく……心強いスね」
「ありがとうございます」
「お父さん、キャスト固まった」
「あいよーガチガチに固定しますね」
彼は頷いた。
「…………」
「(……二人とも、蛍の意思を尊重し”戻そう”ってしてくれる。仕事をただこなすんじゃなくて、患者の希望を叶える……本当にいい医者だ。なんか心がジンとする。しかも必要以上には弟に話しかけようとしない、蛍にとって一番重要な……理性を邪魔しない人たちだ)」
また明光の声が不意聞こえてしまう。またダメだ、……消さないと。意識から外すため、パパパっと明光をかき消す。
緊急事態ゆえ父に意識的に使っているが、本来はこの能力だけは“要らない”やつだ。
──お父さんは、テープを貼り終えて最終チェック。
「うん……おわり、一応”行ける”よ」
「───ありがとうございます、宇内さん」
「「はい」」
私と父は声を揃えた。
月島君は、私の父に向かっての言葉なのにって顔で見てきた。……ワザとだよ。
立ち上がる月島兄弟。試合に戻るんだね。
ほんっと、二人ともバレーボールバカなんだから。
「……何してんの、置いてくよ──ほら美雪」
「あ、れ」
手を繋いで、またコートへ引っ張り上げられるような景色を再認した。
父のところに居ようかと思ったけど、違うみたいだ。
明光は私たちの繋がれた手を見る。
私は、彼から目を逸らした。