30.さよならの笑顔をキミに
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設定主人公: 宇内さん
性別:女
クラス:県立烏野高等学校 1年1組
好物:鶏肉の炭火焼き
最近の悩み事:宮城王国ではカード決済がだいたい使えないこと。さらに登校前と下校後、土日いずれも銀行が空いてないこと。
「小さな巨人」の親戚。運動は苦手。
特技は世話焼き、対年上の振る舞い、念動力の三つ。
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(美雪視点)
ふわんわん、わん。
なんか耳鳴りみたいな、地下鉄で電車が走るような……そんな音が耳を支配する。
誰か話しているのかな?
頑張ってどこの何の音声情報かを読み取ろうとしても、音を知覚できない感じ。何だろうね。
仕方ない。耳が使い物にならないなら、目を見開く。
く………暗い。
目を開いているのに、なぜか低彩度&明度で周りがよく分からない。
私は明るさを取り込み、目を凝らして「ここがどこか」を見ようとする。
瞳孔が拡がっていく。このままめいいっぱい見ようとしたらどうなるんだろ……。
夜の猫ちゃんみたいに真っ暗な目になるのかなぁ。
それともまるでスーパーに並んだサンマのような瞳孔が開き切った目になるのかなぁ。
見えないなあ。
聞こえないなあ。
こんな時は目を閉じて、耳も聴くことを放棄する。
記憶から、鮮やかな色・音を思い出してみる。
羊水の中に揺蕩う、赤子のように丸まって。
───鮮烈な色と思ったら、翔陽だ。
夏ミカンみたいな明るい雫が、私の脳にぽたんと落ちる。暖かな気持ちになった。
いいや……ちょっと鮮やかすぎる。次に飛雄の意志の強めの藍色もぽとんと落とす。
…あれっ??しまった、ちょっと変な色に濁ってしまった。じゃあ、月島君の……卵多めのアイスクリームみたいな色を足す。山口君の、谷地さんの、西谷さんの、清水先輩の………。
いろいろな色を寄せ集めると、どどめ色になった。
小学校の図工の授業の終わりに、洗いにいく時の………混ぜすぎた絵の具パレットの色だ。
───私は、瞬きした。
急に光が知覚できるようになる。
ここは、
冬の学校の廊下??
窓があったので首を回す。
しんしんと降りしきる雪のせいで校庭は土が見えない。ウチの学校の夜間灯照明設備は白色なので、光が雪に反射し灰色に染まっていた。
……雪は窓の枠にも溜まっている。
注目すると、雪粒は一つ一つが幾何学的なフラクタル構造になっていて大変美しい。
渡り廊下だ。
図工室と教室を繋ぐ、窓だらけの渡り廊下。
──低コントラストの、グレースケール世界。
そんなところに私は椅子に座っていた。
ワンワンなっていたのは、強めの風のせいで揺れる電線の音かなぁ。それとも隙間風の音かも。
「音がさむい」
んん……だめだ、足にも力が入らない。
なんか、脳と体が接続されていないような妙な感覚だ。動かない。
景色や音を識ってホッとしたけど、風の音以外何も聞こえない。ここはどこだったっけ?
「……そうだ。思い出した」
……超能力で台無しにしたあの試合の……次の日の放課後の情景。
アレ、ではこれは過去の夢?
あの時私は図工の時間が終わった後、特に理由なく居残っていた。掃除用具の横に椅子があって、ちょっと腰をかけて外をぼうっと見ていたんだっけ。
てんっ、てんっ。
空気の入った丸い何かが、弾む音がした。
やっぱり、バレーボールだった。
「あ、………ボールが行っちゃう」
自分の足元を弾んで通り過ぎたボールは、廊下の向こう側へと消えていった。
向こうは蛍光灯が消えている。
体は動かないし、きっともう取りにはいけない。
……ほんとにそうだろうか??
「あ」
椅子から立ち上がることに成功した。
相変わらず、寒くて、色のない一人の世界。
……でも、歩くことはできそうだ。
くるりと、私は暗い方に向かって走っていった。
ボールは階段の踊り場を跳ね返って階下に転がっていく。
追いかけるように、階段を降りていく。
「はっ、……はぁ………ボール、どこだろ」
息が乱れる。
階段をすぎると、蛍光灯がよっつおきに節電点灯している薄暗ーい廊下。
まだ先のようだ。
……あった。
体育館の扉の前に落ちている。体育館は電気がついているようだ。
ボールを拾おうと、しゃがんで手を伸ばしたら……扉から手がヌッと出てきて、私の腕を掴んだ。
その人の背後から、体育館の照明がカッと照らす。
「……あ」
……私の手を掴んだ人は、月島明光だった。
そのまま引っ張られ、光の中に飛び込む。
色が急に鮮やかになっていく。
冷たい雪風の音は、熱き歓声に。
グレースケールの子供は、ハイコントラストなセンターコートに引っ張り上げられた。
寝ている時の夢の色は、モノクロですか?
それともカラーですか?
2割程度ですが、モノクロの夢を見る人が居るそうです。