（美雪視点）

「……っくしゅ」
「あ、清水先輩、大丈夫ですか？今日は寒いですヨネ」
「アッ、俺のライトダウンつかいますか！」「…だいじょぶ」
「そっすか！！」「お気をつけて！」

翔陽と田中さんが清水先輩の周りをうろうろしていた。
作戦会議が終わり、自主練のお時間。
私は、ファイルをコーチに納品する業務が終了したのでもう家に帰るのだ。
もうぜったいかえるのだ。

「美雪ちゃん……顔色戻ってよかった、もう気持ち悪くない？ここなら酔い止めあるけど良い？」
「うん。もう大丈夫だよ、ありがとう」
「ところで………なんでそんなゴツい手袋してんだ？」
「バイクグローブですよ、別に何の不自然も無いですよ」

視線から避けるように手首をキュッと掴んで私はごまかし笑いをする。
飛雄も谷地さんも勘が良い人たちだ。包帯が見えていたら多分心配させてしまう。
最前線に立つ人たちには私のような木っ端者の事は意識しないでほしい、本当に。

「……じゃあ、今度こそまた明日！」
「うん、お疲れ様ぁ」
「ばいばい、翔陽」

とうとうあの牛島さんと戦うことになる。
明日この体育館を訪れる時には、勝者か。──敗者か。

「ねえ、宇内さん」
「何？月島君」
「───僕はクロスばっかり防いでたとして。あの人相手に“あえて”ストレートを開ける戦法、これ。どう思う？」
「！……いいんじゃない。ここぞって時閉めるんでしょ。あの人も飛雄に負けず劣らず超負けず嫌いだから。強いストレート邪魔されたら……多分コンマイチくらいはイラっとするんじゃない？」
「……」
牛島さんの攻略？方法を投げかけてきたので、パンケーキ会の時のように所見を述べた。

「いや……でもマジか。……下手したら何セットも仕込まなきゃいけないんだよ？そんなずっと全力跳躍＋頭も回しながら飛ぶつもりなん？？しかも大事なのは時間を稼ぐことじゃなくて、稼いだ後何をするかだよ？」
「分かってる。ハマったらラッキーくらいに考えてる。……手数は多い方が良い」

そうか。ならばもっともっと頭を回したくさんの手数を考えてほしい。君は間違っていない。私は月島君の方針に是と返すことにする。

「なるほど、であれば大丈夫かな」
「……？」
「月島君の腕は間違いなく、白鳥沢を穿つ矛になれる──単独でこんなに殺意が高いヒト、敵からしたら恐ろしゅうて仕方ないわぁ」

私は月島氏を称賛した。(素直に褒めるのはテレるので方言でおどけつつ)
するとすっぱいものを食べたみたいな顔になり、私から目を逸らす。
飛雄もだけどこの人も手放しで褒められることに慣れていない様子だ。

「……別に、そんな熱くなってないし。……ねえ、山口も。この前の話だけど」
「何？ツッキー」
「“僕は”牛若には勝てない、勝てるワケないじゃん？……体が違うし経験も違うし、バレーに費やした時間も違う。ならば勝てるわけがないデショ」
「………」
この前の話っていうと、翔陽と山口君と喋ってたアレか。自分が止めるか、隣の奴が止めるか。そのどっちかしかないんだってやつ。
スタメンのMBは1年の月島君と翔陽だけなのだからね。

「ただ、…何本か止めてやろうと思ってるだけ」
「！！」
「山口も、ピンサーで出る時はそのつもりで」
「……うん」
月島が何かをやろうとしている。
翔陽や、飛雄だけじゃなくて……山口君だけじゃなくて。この月島君も。

「あぁー、明光んとこのチームの“ムカつくおじさん”倒せたんだ？」
「お前はホンッット、……ま、そーゆーことだよ。相手は機械じゃないんならやりようはあるって分かった」
「念のため言っておくけどチームプレイなんだから、やる事まとまってるんなら適切なタイミングでチームに共有すんだよ？カンチャン※したら私でも怒るぞ」
「察せなかった人が悪い」
「ツッキーそれ日向にも同じこと言えるのか、日向だぞ」
「……山口君の暴言久々に見たなあ……」


＊＊＊
カンチャン※…麻雀ゲームの用語から転嫁したもの。2名以上のプレーヤーでブロックした場合、ブロックの隙間が空いている状態のこと。


主人公父は、宮城出身-大学東京, 主人公母は、京都出身-就職東京
宮城人を自称しておるが、こんな両親を持つので方言リミックスされているである。