28.対策と対抗
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設定主人公: 宇内さん
性別:女
クラス:県立烏野高等学校 1年1組
好物:鶏肉の炭火焼き
最近の悩み事:宮城王国ではカード決済がだいたい使えないこと。さらに登校前と下校後、土日いずれも銀行が空いてないこと。
「小さな巨人」の親戚。運動は苦手。
特技は世話焼き、対年上の振る舞い、念動力の三つ。
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(谷地視点)
「狙うのは、全国大会優勝だ」
澤村さんの静かな決意に、ビリビリっと背筋が震えた。
わたしはただの村人Bだったが、なんと魔王さんを倒す勇者のパーティ入りをいつのまにか果たしていたようだった。
「え、それ以外に何かあんスか」
「またお前はそういう言い方ァアア!!」
「お前バカだな!改めて言っただけだろ」
日向と影山君はいつも通り小競り合いをしている。
私も数ヶ月一緒に過ごせばこれらを“いつも通りのあれだ”とスルーできるようになった。
「当然!!」
「そのつもりだ」「あ、僕は何でもいいです」
「そりゃ全国行くからには!!」「まだ行くって決まってねえよ」
言葉こそバラバラのようで皆の意識は澤村さんと一緒。
こくり、と神妙な顔で皆意思を確かめ合っていた。
なんか、いいなあ。こういうの、好きだな。
「……モチベーションは申し分なし、それじゃあ目の前の強敵の話をしよう──、」
「秘密兵器、私登場」
「!!!」
「……美雪ちゃんっ!」
コートと一緒に顔を出したのは、家に帰ったはずの美雪ちゃんだった。
「やっ、谷地さん。飛雄も……また明日って言ったのにお恥ずかしいかぎり。あのあと家に戻ったあと、すぐにコーチにお呼び出しされましたです、あはは〜」
「おめえも書類仕事続きで眠いだろうが、課題の提出期限は今日必着なんでな。全部持ってきたか?」
「ういっす、ちゃんと仕事は果たしますよ。おかげさまで家のプリンタ、インクがすっからかんですよ」
美雪ちゃんは【部外秘※白鳥沢学園バレーボール部選手一覧】【部外秘※烏野高校排球部選手一覧】と書かれた2冊のクリアファイルを澤村さんに渡した。
美雪ちゃん、部活にいかない時にはいろんな学校に足を運んでいると言ってたっけ。
おそらく彼女の智の結晶がそこにあると思う。
「………、」
菅原さんと東峰さんはそれを覗き込む。「………………まじで??」
「宇内がアシとアタマ駆使してこねくり回した、秘蔵のファイルだ。俺も添削にチョー苦労したんだかんな」
「Vリーグじゃあ、もうこんなのも画像解析とAI使ったデータバレーが主流ですけどね。一方私の方は泥臭ーい取材と計算と、仮説と実証の繰り返し。……でも、結構イイでしょう?」
私は、烏野高校の方が回ってきたので日向と影山君と覗き込んだ。
「お、おお??……よく分からん」
「絵がなくて数字ばっかり」
条善寺対策会議(パンケーキ食べているだけ?)の際ちょっとだけ見せてもらったやつだ。
日向が試合中何回打って、何本決まったか。グラフデータとデータソースを置いて、強みと弱みの所がハイライトされて美雪ちゃんなりの分析が書かれている。
私や清水先輩が詳細に記録したスコアのてっきりアーカイブ的なものかと思ったけど。こういった加工方法があるのかと大変勉強になる。分かりやすい。
「………彼を知り己を知れば百戦始からず」
「谷地さん?」
「そうだよやっちゃん!私たちには未知の敵と戦うわけじゃない。情報がある。何より脳がこんなにもある………ならば、対策をとれば勝てない敵なんていない!」
「すごい。美雪ちゃん………こんな、いっぱい!」
「おおぃ、谷地ですら価値が分かるのに、ピンときてない選手多すぎな件」
「う、牛島さんがサウスポーってことは分かりました!!」
見渡すと、そういうものに感激するタイプと数字が苦手なタイプの真っ二つに分かれていた。たしかに。
私とかはバレーにおける戦法でこういうときは正解・この行動は不正解とかの知識が甘い分、こういうグラフデータでの行動指針方法の方が理解が早い。テストの採点結果見るみたいで良し悪し分かりやすい。
そういえばこんな数値分析に取り組むのが得意な人、私や美雪ちゃんの他にもう一人いたっけ。くるりと月島君を見ると、日向からファイルをむしり取って月島君自身のページを読んでいた。特に驚きも悩みもなくページをめくっていた。頭の中では高速回転で何かが行われているのだろうか。
「………」
「ま、それも使いながら具体的な対策をしよう。宇内のデータを見ると、意外にも白鳥沢はムラっ気があるように見受けられるだろう。試合によっては大きい点差で落としているセットも普通にある。澤村、この意味が分かるか?」
「はい……青城や、和久南みたいな……安定感はない」
「そうだ、───県内で最も完成されたチームを青葉城西とするなら、白鳥沢は“県内で最も未完成なチーム”だ」
「…?」
「最も未完成なチーム……」
「最初は印象だけだったけど数字で見るとその仮説は正しいとわかった。こんな無茶なほど……いや、見事に。俺たちとは違った意味で殴り合いを制して勝利を収めるチーム。そこには青葉城西みたいな精巧綿密な戦術はない。あるのは強い方が強いといわんばかりの主張だ」
「そしてチームが線と線で結んでいない。点と点で存在している」
「点と点?」
「言い換えれば、俺たちや、他の多くのチームがやろうとしている攻撃が“かけ算”なら、白鳥沢は“足し算”。個々の強い力の足し算だ。早さで、位置差で、時間差で……俺たちはブロックを掻い潜る工夫をする。まー白鳥沢も時間差を使うが、レシーブが多少乱れたり確実に点を獲りたい場面ではほぼウィングスパイカー…特に牛島に高いトスを集める」
「………」
及川さんが京谷さんに3rdテンポのオープントスしたみたいなやつかなぁ。三枚ブロックを破壊、いやこちらの心を抉るような強打スパイク。
「理由は一つ、それで点が獲れるから」
「でも戦術が分かったとてそこで終わりではない。及川サーブと一緒ッス」
「──戦いやすいわけでは全く無い……」
「そうだ、お前ら覚悟しておけよ。白鳥沢の攻撃スタイルは決して新しいとは言えないし比較的分かりやすいと言えるが──強さはダテじゃ無ぇ。
一本の最強の矛でただ単純にブッ壊す。………そういうチームが白鳥沢だ」
「その評価だと、周りがまるでカカシか何かみたいな言い草だけど」
「……ああ、現実はそうじゃ無いから“白鳥沢ブランド”なんだよな。…牛島がチーム最強であることは疑いはねえが、周りの奴らが凡庸なハズもない」
「………」
百沢君みたいに一人だけ能力バランスが突出していたら、まだ崩しようはある。
でもそれは期待はできないわけですね……。
コーチと美雪ちゃんは勝利後の高揚感に浸っていたわたしたちを…現実に引き戻した。
皆の表情は徐々に強張っていく。
「でもな、これだけは自信を持って言える──“点を獲る力”では絶対に負けていない。まずは、殴り合いを制せ」
「夏の合宿や試合の中で勝ち得た、たくさんの武器・防具を……ここで使わずしてなんなのさってことデスよ!」
「……え??武器はわかるけど防具って?」
「……牛島さんは攻撃特化の点取りマシーンです。もう、ホンット今まで相対したことない速さで獲ってくる。5セット……時間をかければ烏野は手数で競り負けます。つまり烏野高校にとって一番のキーパーソンは……」
「───俺っすね」
「正解です。西谷さんです」
美雪ちゃんの肯定で、皆が西谷さんに注目した。
「白鳥沢にウシワカ有り、なら……烏野には俺有り、っスから」
ビッ、っと自分を親指で指して言う。
「わはは!!そうだな!……理解が早いようで結構ッ!」
コーチがホワイトボードを持ってくるように私たちに指示をしてきたので清水先輩と一緒にコロコロする。
きゅきゅきゅーと、手慣れた様子でコーチは図を描いて、選手位置にマグネットを置く。
全然関係ない話だけど、定規もないのに線が綺麗だ。
「………牛島の全ての攻撃を止める、或いは拾うなんてのは無理な話だ。でも──拾えないスパイクは拾えるようにすればよし!」
「?」
「トータルディフェンスだ。……ここまでの試合を見て。牛島の得意なクロス側をブロックでガッチリ締めて、開けたストレートに西谷を配置。リベロのところへ打たせるように仕向けろ」
私は白鳥沢の方のファイルが回ってきたので、牛島さんのページを見る。
クロスの成功率は非常に高い。なんと日向の倍。……日向もクロスは得意な方なのに……うう。怖い……。
「……ちなみにもう一個、白鳥沢の特徴です。牛島さんにボールが集まっているときは……逆に言えば先方は余裕がない。牛島以外の攻撃が来た時は“ラッキー”じゃなくて“相手に余裕を与えてしまっている”と思ってください」
「白鳥沢の場合、センター線を使ってくるのは余裕の表れだ。センター線が機能していればサイドのウィングスパイカー達に手がつけられなくなる。俺たちの課題は牛島だが──こちら側から対牛島の構図を作らなければ話にならない」
「そりゃ……“燃え”ますね」
「頼みましたよ、烏野の守護神サマ」
烏養コーチは西谷さんの肩を叩き激励した。