(美雪=宮ノ下英里視点)

「………ああ〜…っ」
「取られちゃった！！」

（新たな攻撃を得られた烏野は、囮による撹乱も十全に機能している。
一方で、青葉城西の安定感たるや職人のようだ。練習量に相当する自信、チーム各員に対する「任せられる」という思いがあるので、指示も役割も明確なので安定した防御力。お互い苦しいシーソーゲームを強いられているが…。どちらかというと決め手に欠ける点から、烏野優位側かもしれない）

「このセット落としちゃうかなあ」
「えーっやだあ！！押せ押せ青城！！！」

ここで笛が鳴り、青葉城西側メンバーチェンジ。
烏野への揺さぶりか、はたまたリーサルウェポンの投入か。

「…！きゃあああ！！！」
「！？どうしたの、英里ちゃん！？」
「え？誰？？あんな選手居たっけ」

「か、……かっこいい！めっちゃ好みの人出てきた！！！」
「え？？」
「英里ちゃんの好みのタイプ、ああいう人なんだね………」

氏家さんに呆れられた。ノートを広げてカメラを構える。これは是非撮らないと。
（京谷選手、確かに宮ノ下さんが好きっぽいタイプでつい、それを演じなきゃって思いが先行してしまった…。元々翔陽や灰羽君みたいな壊れプレーヤーは好きっちゃ好きだけど、やっちまった感がすごい。しかし、んんー……優男多目の青葉城西ぽい選手じゃないなぁ。明らかなパワータイプ、WUを見たときは、瞬発力とバネが特に特出していた印象。周りのリアクションとチームでの扱いを鑑みるに公式戦参加は初っぽい。敵ながら大丈夫なのか？）

「えー？カッコよくないです？？メクザイルでメインダンサーやってそうなイケメンさんです！」
「あぁー、たしかにー似てるかも…？？」
「でも、めっちゃ攻撃の邪魔してません？？」
「あららぁ……華々しいスタートとは行かずですね」

京谷さんは金田一君のボールを横取りして、パワーで弾き飛ばしたがあえなくアウト。流石の及川さんも顔が崩れていた。
岩泉さんから鉄拳を食らってシブシブ反省している顔も割とキュートだわ。

「なんだあいつ？」
「あんな奴投入して青城どうした」
他校からのヤジに振り返ってムッとする。

「違いますぅ、これはやや膠着状態になってる試合にスパイスを投入する事で烏野のテンポを崩すんです！！こーゆー何度も試合したとこに対しては効果抜群なんです！！！」
「ちょっ、英里ちゃん落ち着いて〜……」
「次のセット絶対取れるんで！！もうこれ絶対なんで！！」
「「はいはい」」
平間さん氏家さん両方に頭をなでなでされた。

セットポイント直前の国見くん⇔京谷様の交代を行ったが、第2セットも同じオーダーで続く様子。ここで変えないということは、京谷様でこのセットを掻き乱そうという意図を感じられた。ローテ順自体は変えずに行くようだ。
いやでも本当に烏野を崩すつもりなら、金田一君とも入れ替えた方が安定感を重視しつつ、月島君のブロックも牽制できるんじゃないかなあ？あたしだったらそうするなあ。

東峰さんのサーブでスタートしたが、ギリアウト。得点はこちらから。

「及川さんサーブだ」
「今日あんまりサービスエース入ってないから、ここでほしいなぁ」
「むっ………あーっ！！アウトだー…」

（及川さんはセットもサーブも県内イチといっても良いのかもしれない。ボールを操る指先の繊細テクニック、パワーも申し分ない。何より安定した集中力と人の懐に自然と入れる観察力。あの飛雄にコンプレックスを植え付けるだけの能力がある。確かに京谷さんっていう劇薬を投入しバランス崩しをしても、いずれは彼のハイスペックさによって使いこなせるという自信があるのかもしれない）

「及川君どうしたんだろ？またサーブミス」
「でもすっごいスピード…触ったら腕もげちゃうね」
「男子の平均速度は時速110kmと聞きます。ボーッと突っ立っていたら、流石に怪我しちゃいますね」
「ひええ、こわいっ」

（1セット終盤から、サーブの速度を早めているように感じる。ミスは増えれど、照準が徐々にコート内に合わさってきているし……意外と青葉城西ってスロースターターチームなのかな。一応、及川さんサーブの時は、落ちる位置のメモを記録しているが……危ない気がする）

「えっオープン！？まじで！？」
「なにそれ？？」
「あっ、今見たいに高く山なりに上げて、助走の余裕を持たせて高さと正確さを保証するセットで……うわっここで京谷様スーパーインナースパイク！！」
「す、すっご」
「クイックもバックアタックもできるのに、あえてライトを使ったのはなんでだろ」
「英里ちゃんの言葉がわからない〜解説ぅー」
「あ、はは。すみません。オープン……それはあたしや氏家さんでも頑張ったら取れるトスなんです。でもクイック…えーと、烏野10番や金田一君がやるようなボールが飛ぶ位置に飛び込むような攻撃は難しいですよね」
「うん」「足もげる」
「さっきの及川さんの場所だと、体の向き的に金田一君や岩泉さんのクイックも渡さんや花巻さんアタックも使えますし、ツーアタックだけは出来ませんが、セッター的には撹乱し放題なチャンス位置なんですね」
「へー」
「あたしだったら、オープンやったら3枚ブロック思う壺なんで、岩泉さん選びます…。京谷様への信頼感でトスしてる？ってすごいですねえ。きっと失敗してもフォローできるんでしょう」
「とりあえず及川君がすごいということはよくわかった」
「うん、すごい」
「そうですね、スゴイです……本当に」


「二人ともでクイックで走った！！英里ちゃんあってる？」
「ふふ、合ってますよ」
「なるほどー………さすがに私もわかってきた。及川君は京谷サマにボールを集めているね。なんか意図があるのかな？」
「さあ、それは分かんないです〜。あ、烏野にもそれがバレてるか、さすがに」
「3連続得点！！」

ガン！と花巻さんと京谷様がぶつかっているのを見て、田中さんがビックリ顔をしていた。
これだけ1選手が目立てば、今後は日向君と同様囮としても十全な効力を発揮するのかも〜。

（弓のようなタメからの、鋭いスパイク。ありえないくらいパワーが突き抜けている。残念ながら「俺が俺が」が強すぎて、セッター的には超使いづらいけど……チームとの協調性が育ったらとんでもない選手に化けるだろうだろうな。なんでこんな選手ここまで隠し通していたんだろうか。あと及川さんの評価は上方修正、要は思った以上に“ダイオウサマ”ですな。
…翔陽バックアタック失敗したかあー！！！くそー！！ここ決めたかった！！ムカつく！！
ふむ、能力パラメータは概ね分析できたのでメモ帳と鉛筆で自動筆記。目も頭も口も手もフル稼働で処理しているが、この試合が終わった後の反動が怖い）

京谷様が調子を上げてきている。
目が爛々と輝いてる様は、ピタリと照準を合わせたライフル射撃のレーザーのようだった。