26. vs 家族
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設定主人公: 宇内さん
性別:女
クラス:県立烏野高等学校 1年1組
好物:鶏肉の炭火焼き
最近の悩み事:宮城王国ではカード決済がだいたい使えないこと。さらに登校前と下校後、土日いずれも銀行が空いてないこと。
「小さな巨人」の親戚。運動は苦手。
特技は世話焼き、対年上の振る舞い、念動力の三つ。
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救護室。
「失礼しまーす……え!?」
「あ、……お前……来てたのか美雪」
「お知り合い??」
「見たことある後ろ姿と思ったら……本当にお父さんだったんだ………。あ、この人……普段単身赴任している父です」
「お、お父さん??」
「はい。普段外科医でスポーツ医も兼任してますが、まさか今日宮城に居て、しかも会えるとは思いませんでした」
「初めまして、宇内と申します。娘と仕事場で一緒になるとは存外新鮮な感覚です……ええと、娘がお世話になっています?」
「こちらこそ??」
なんだこの突発的保護者会。烏養コーチも教員的対応慣れてないからしどろもどろで違和感しかない。
……って重要ミッション終わってないのに何を弛んだことをしているんだ私しっかりしろ!
「一旦それ中断!……お父さん、クランケ。メモ記載の時刻、2名の接触で頬の打撲、相手型の恐らく肩甲骨と顔が当たったと思われ、幹部はアイシング処置。
担架も大丈夫とのこと、経過観察してもふらつき等は見受けられず、意識記憶会話共に問題なし。
一方で歯が完全脱臼。脳震盪痙攣による誤飲予防のため牛乳で保管中。歯の治療とCT撮ってなる早で試合復帰を希望」
「……了解。順番的には歯科治療が先だな、ここでは処置できないです。私から紹介状書きますので、お名前とご住所をご記入下さい。サワムラさん、保険証はご持参されていますか?」
「あ、ハイ。あります」
「この場は宇内親子に任せときゃ大丈夫そうだな。俺、戻って大丈夫か?」
「はい、皆をお願いします」
「ありがとうございます、烏養コーチ」
烏養コーチが退出して、居残りメンバーは私と父と澤村さん。父は紹介状を作成している。ううん半年ぶりに会って若干の気まずさある……。
「部活、所属していたんだな、知らなかった。しかもあのバレーか」
「ええと。……じ、実はマネージャーでもなんでも無くてただの応援要員です」
「はあ!?塾辞めるって遊ぶためだったのか??」
「ちょちょ、澤村さんの前でそれは」
声を荒げた父を諌める。
いやまあ報告はしなかった事ではあるが、成績が落ちない限りは部活禁止では無かったはず……。
「適度な部活動なら、運動による脳の活性化が期待できるため認めるつもりだった。だが、その程度なら、私は遊んでいるとしか判断できない。動きたいなら良いチーム紹介する。お前が前に居たクラブチーム。あそこは今結構強いところに・・・」
「絶対いや!……それよりこの話はここではしたくない、先輩もいるし…」
「お前はいつもそうだ。議論を先送りしたがる…時間は物事を解決しないと知っているだろう?結論は?」
「……えと」
コレは……さすがに絶交とかそっち系が求められている…よね。もう翔陽や山口君との約束……破りたくないし、ここは戦わねばなるまい。
「待ってください、……ええと、宇内さん!」
「はあ」
私が、父の問いに答えようとする所、遮るように澤村さんが割って入った。
「すんませんご家庭のお話に口を挟んで……。改めて、烏野高校のバレー部、主将の澤村と申します。娘さん、少なくとも楽しそうに半年を過ごしていました。
俺・・・いや、私たち部員は彼女に助けられてますし、彼女もこの部をよりどころにしていると自負しています。少なくとも、私はこの子はこの大会にかけてはならない人で、部員も間違いなくそう思ってくれていると考えます」
「確かに娘は、無能ではありません。自分の力が及ぶ範囲なら間違いなく人の役に立つような動きをするだろうと親の私もそう思います。今回言っているのは、そうではない。
娘の悪癖、目標を決めずに動くことだけ初めて、後からどうにもならなくなって道を変える点の糾弾です。
彼女が私に約束したのは私指定の大学の合格のための努力は惜しまない事。それを一番の優先事項にする事で私はそちらの高校に通う事を認めています。
まず決して充実した学生生活のためじゃない事は留意頂きたいです。
今回何より気に食わないのは何時消えてもいいように退路を意識しているのが証拠です。せっかく擁護頂いている所誠に申し訳ないですが、そちらの部に所属していない現状、娘のこの行動自体も無駄と断じるほかありません。ご迷惑おかけしてスミマセンが家庭の事情によりこれ以上関わらせるのを禁じたく思います」
「・・・・」
グサグサと刺さる父親の言葉。
そうだよ、知ってる。私は逃げつつけてここに居る。皆の優しさも実は袖にしていて自己保身優先。
決して褒められた手段ではない。
澤村さんは父の言葉を静かに聞いていた。
……こんな姑息な自分の内面、澤村さんには知られたくはなかったなあ………。
「……確かに何度もお願いしていて、マネージャーを断られています。……それに対して思う事が無いとは言いませんが、彼女はいつか選ぶと信じています」
「はあ、それは何をでしょう?」
「ウチの部に関わることで、自分がどうなりたいかを定める日です」
「えっ」
「……授業でも、塾でもなく、あなたの部に関わることで、この娘の意思が固まると、そうおっしゃるのですか。ハハ、なかなか自信過剰ではないでしょうか?人一人の在り方を変えるなんて並大抵の努力ではなしえないと思いますよ」
「大丈夫です。同級生とも上級生とも分け隔てなく、好かれている彼女です。きっと彼女は、今まで人に頼られることが少なかった子だと思います。…年上すら頼られることにちょっとむず痒い顔をしているのをよく見ます。でも、人につくしつくされることの大事さを知った。
できること、できないこと、したいこと、したくないことを知って……実はもう頭の中に何をどうしたいか彼女自身が決めている」
「え──……」
澤村さんがそんな風に私を見ていたのかという驚きと、まさかの全力フォローで顔に熱が集まるのを感じた。彼はそのまま私の方を振り返って笑った。
「俺のトコへ走って来てくれてありがとうな。……それ、どうしてこっちに来てくれたんだ?」
「え、っ……無我夢中で、私は──最優先に救護しなきゃって。………その時は自分がやらなきゃって、本当何も考えてなかったです……うわ恥ずかし。そうですよ、大会なんだから医療スタッフ居るのは当たり前で……全然忘れていて」
「ほら、」
「?」
「識っている、イコール、知識全てが現実で活用できるとは限らない。でも君は、知っているからこそ知っている人なりの責任の取ろうとする。何か起きた時はその時出来ることを全部やろうとする。
知らないふりはできない子だから。
それで──いつも、眺めることで、皆を守ろうとしていた。
あんなに輪に入りたそうにしているのにどうして頑なにマネージャーなりたがらない理由、今まで分からなかったけど、今日分かった。
入部して、ご両親に見つかったら辞めることになる。君は結果的に受け入れざるを得ない、自分の中に確固たる反論材料が無いから」
「うっ・・・。」
私はできる限り長く応援がしたかった。でもそれは誰にも真意をバレてはいけないはずの一番姑息な方法。通信簿にも評価コメントにも、ましてや公式記録に一切記録が載らない手段。
「これを突き付けて、君の顔を見て。関わり続けたいと思ってくれているの、俺は分かった。
ぶっちゃけ、内面がちょっと知れてよかったと思うし、バレー部が本当に好きってコト、分かって嬉しい」
「うう、それはー、そうなんですけど──……悪癖半分、意地が半分っていうか……ああもうお父さんニヤニヤしないで」
「美雪、言い訳に力がない上、私に当たるな。………澤村さん、………残念ながら時間切れです。
謝罪します、娘と意見を違えるのが新鮮でついお見苦しい所お見せしました。
歯科予約取ったので、もうすぐ出なければいけません、着替えて準備を。あと……、コーチさんにも妙に気を使わせてしまいましたね。美雪、扉開けて」
お父さんが扉を指したので渋々開けてみると、烏養コーチが来ていた痕跡が落ちていた。
「……あら、ほんと。澤村さんの鞄だけ廊下にポツン……通院するって分かったから持って来てくれたのね」
「センシティブな話題で入りづらかったのかも?」
「それは非常に申し訳ない」
澤村さんは、早速調達できたカバンからコートを取り出して、ユニフォームの上から長ズボンを履いた。
「さて……そのまま病院送るよ。ちょうど次のシフトの人と交代時間だし車で食いながら向かう」
「あ、はいっ。ありがとうございます!!」
「ありがと、お父さん」
「ああ」