「四番を抑えられれば勝機が見えるかも、て時に何やってんだお前……公式試合なら一発で出禁だからな」
「反省してまーす。木兎さんがあんまりにもあんまりだったのでツッコミ精神が疼きましたー」
「空気読みなさいよ、全く」
ぽこ、っと烏養コーチにしばかれた。

試合が再開され、赤葦さんの宣言通り、4番の攻撃・防御の機会は格段に減った。
しかしさすがは全国レベルの梟谷、主に三年組がうまくカバーしていた。
というかイジリ組がイキイキしている。故に士気も落ちてない。

おそらくこの状況は慣れているのだろう。
あん？お前尚更余計なことしたって？
……イイんだよ、木兎さんがサガってたら、翔陽が楽しくないからな！！


「梟谷ポイントマッチーッ！」
「「あと一点〜っ」」

「…梟谷は木兎が引っ張るチームというより、他のメンバー全員で木兎を引っ張るチームってことか…！」


くそっ、梟谷マネ組に負けるかー！

「かーらーすのー！！バーベキュー！！最高のライブにしようぜーっ！！」
「！！」
キラッと田中さん西谷さん他1名が飢えた顔でこっちを見てきた。
「前、前！」
澤村さんは怒った顔で指をさした。


「応援団長ー、今日限りで退任なーっ」
「そんなー……デビュー戦で引退試合…ですか」
遂に烏養コーチから退任が通告された。


「私は折れない！……うおおお！！私のラストライブ！！盛り上がって行きまっしょい！！」
「おおおっー！！」

谷地さん、山口君、(リベロと交代中の)翔陽の応援を受けて風船花吹雪を大放出した。

「派手に行くぜ！梟に負けんなー」
「おー！」

月島君がちょうどドシャットを決めた！
ソフトじゃなくて、キルだ！

「おお！！ドシャットー！！！」
「よしあと一点！あと一点でデュースに持ち込める！」

ここで旭さんはジャンプサーブじゃなくて、フローターを選んだ。
…ん、狙いに行ったのか。
コーチの顔は険しかった。

サーブは残念ながら崩せず、小見さん→赤葦さんと繋がった。
攻撃選択は誰だ？
尾長君……ではなくて！

→木兎さんだ！

ズドッ！！
大きな音を立てて、月島君の横飛びブロックを弾いた！

ピピーッ！

25対23、エース復活。梟谷の勝利だった。

「あぁっ……」
谷地さんのため息で気付いた。……あっ烏野の負けだった。

「んがーっ」
烏野は悔しそうに吼えた。
わ、私むしろ晴れやかなんだけど…梟谷に肩入れしすぎだよな……。
でもさ。エースの復活って旭さんの時もそうだけどスカッとするんだよね……。

これぞ俺たちだ、どうだ文句あるか！
って感じ、ビリっと来るんだよ。

と、思いつつ梟谷の様子を伺うと、なんかチーム全員で鼓舞していた。
ちゃんとアフターフォローもする姿勢、グットです。赤葦さん。
「やっぱり俺最強——ッ！ヘイヘイヘーイ！！」

大エース復活、おめでとうございます。

くるっ、と木兎さんがこっちを見てきたので、(やべ、なんか声に出たかしら、と思って)身構えた。

「っどーだ！参ったか！！」
「……あっはっは！参りました！！最高にカッコいい木兎さんです！」
「へっへーん！そーだろそーだろー！」
親指を立てて笑うしかなかった。

「次ももっとかっこいいところ期待してますよ！」
「……！お、おーよ！」


「…正直…木兎君さえ止められればあるいは…と思っていたんですが甘かったですね…」
「…………木兎が意識してるかは置いといて、あれだけ自由且つ我が侭で居られるのは仲間への絶対的信頼があってこそだろうな。僕とを放置する仲間もまたエースは復活すると疑わないからそうできる」
「……いいですね、ちょっと烏野に足りない部分かもです」
「そーだな、1・2年を主力に置いてる分、ズケズケと我が侭言える程の仲じゃないからな」
「バラバラに見えて梟谷のチームワークはウチの数段上だったって事ですか…」


「んがーっ」
「！！？」

「……すまんっ最後のサーブの時ビビって「どうぞ攻撃して下さい」ってサーブ打っちまった…！！」
「！——それが自分でわかったんなら上出来だ」
烏養さんは嬉しそうに笑う。そうか、烏野のコンセプト、か。


「あの場面でどれだけ攻められるかが勝ち上がっていけるかどうかを左右する。ビビるのは分かるけどな」
烏養さんは、この試合をどう見たか。そんなことはわかりきっている。

「誰だって自分のミスで試合終わらしたくなんかねぇし、でも。
“勝ちに行くサーブ”打とうとする奴を非難する奴なんかチームには居ねえよ」
「ハイ」
「…でもま〜終わってみれば見事な負けっぷりなワケだが…１つだけハッキリしてる」

そう、この梟谷戦……きっと皆の自信に繋がった。

「…お前達の攻撃は“全国”相手に通じる」

もう県大会レベルでは収まらない、立派なカラスへと成長したのだ。
春の時と同じではない。