木兎光太郎の憂鬱(木兎視点)

「俺のサーブで突き放ーす！！」
「木兎ナイッサー」
「木兎さん、冷静にですよ」
「冷静だっ」

烏野は見るからに調子を上げている。
この合宿メンバーの中では一番弱いと決めつけていて、多少の油断があった事はことは認めよう。しかし、この差は何だ。俺は全く活躍していない。

ここで決めなきゃ、ますます調子付かせてしまう。
はやく折らねば、何か手はないか。

「ッおらあぁあ！」
俺のサーブは、ネットど真ん中に直撃、クソっ！

「チックショォオオ！！スマアアン！！」
チームメンバーからは宥められた。俺が、俺が決めなきゃいけんかったのに！ボーズ君からのサーブ、今度こそ取るっ！

「こんニャロ…」
ウエには上がったが、ナイスには程遠い。
「俺に寄越せえええ！！一本で切ってやる！！」
ここで決めにゃ梟谷の木兎が廃る！


「木兎さん」
赤葦は応えてくれた。

「ッシャアア」
「ブロック三枚！」
ブロックに弾かれた。まだまだ！！

「ムッ……もう一回だ赤葦ィ！！」
「———…お願いします」

「っっしゃあ！」
赤葦はやや逡巡したが、俺にトスを上げた。

俺の攻撃は、大きな音を立てて……ネット白帯（はくたい）に激突した。
……入らなかった。
この俺が…この場面で……入れられなかった……。

「赤葦……」
「……はい」

「今日はもう俺に上げんなっ…！！」
ごめんな、みんな！俺のせいで……っ！

「わかりました」
「……えっ」
あれ？責めないの？というか励ましてもくれないの？？
「じゃあ、上げない間に落ち着いて下さいね」
「……………」

あっれー？そうくるー？？
他の部員も、うなずいて赤葦の方針に了承しているようだ。
なんだよーそれはそれで寂しいじゃんかよー。

すると、何処からかボールがぽこっと肩にぶつかった。
「！？……誰だー。傷心の俺にボールぶつけんのはーっ！」
気落ちしていた分、無理矢理怒ると、ぶつけた人が手を上げた。

意外にも……宇内サンだった。

「私でーす！あなたのファンの宇内でーす！……サッサと調子戻して、冷静沈着カッコイイ木兎さんになってくーださーいっ」
「なんだとぉーっ！俺はいつカッコ悪い木兎さんになったって言うんだーっ！」
「はー？？もう一個ボール行っときますかーっ！！？」
「宇内さーんナイスー。次もお願いしまーす」
「赤葦！？俺に冷たくない今日！？」
「俺はいつもの俺です」


「宇内さん、どうどう」
「試合中に絡むのヤメな。記録は？」
「はいはーい、書きまーす」
ボールぶつけた人は、向こうの監督コーチに怒られていた。

……冷静になれ、か。
簡単に言ってくれるよね、二人とも。

くるっと見渡すと、意外にも仲間の顔は、晴れやかに見えた。
……なんだ、ホントに誰も俺を責めねえでやんの。

鬱々とした心が若干落ち着いた気がした。