19.彼女の物語
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設定主人公: 宇内さん
性別:女
クラス:県立烏野高等学校 1年1組
好物:鶏肉の炭火焼き
最近の悩み事:宮城王国ではカード決済がだいたい使えないこと。さらに登校前と下校後、土日いずれも銀行が空いてないこと。
「小さな巨人」の親戚。運動は苦手。
特技は世話焼き、対年上の振る舞い、念動力の三つ。
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(月島視点)
*********
信じられない、なんなの
人を巻き込むなよ、ちょっと、
「……すんません」
「…………」
視線で抗議したところ、謝られた。許さない。
宿舎から上空20メートルはあるだろう。
——僕は、宙に浮いていた。
わけわかんない。しかもだんだん寒くなってきた。地面から離れて気圧が下がって来ているからだろうか。
まさしく暴走。人一人が起こせる範囲をゆうに越えていた。
「……ココは夜でも明るいな、地元と全然違う」
「………」
眼下にはギラギラと街灯や信号、車のテールランプなどが光っていた。
むしろ森然高校だけ暗く見える。
「え、えっとー……ついでだからコンビニ寄ろうかな。あの小学校の校庭に降りる?」
「……やめておいたら、住宅街は視線がどこにあるかわかんないし」
「そっかー、そうかも。それはコワイな」
宇内さんは落ち着きを取り戻したのか、緩やかに下降し出した。
「ごめん、バレた時の説明怠かったから連れて逃げた。戻るね」
「は?先生ならバレてもいいでしょ、どーせ伝えるつもりだったって」
「イヤイヤ……あの場は違うよ…違う意味で怒られるわ」
「そーゆー後ろめたさはあるんだ?」
「……まあ、ね」
宇内さんは一度口を噤んだ。
「………おりるまでちょっとした小話なんだけどさ」
「?」
「……まえさ、昔バレーやってたけど今やってないって話したんだけどさ、覚えてる?」
「ああ、オリエンの」
「これできるようになってからしばらくしてさ、クラブチームの子供カップとかの交流試合かなんかで使ったコトが一度だけあったんだ」
宇内さんは怒りと悲しさのおり混ざったような表情をした。ちょっと僕が聞いていい話なのか分からなくて居心地が悪かったけど…まあ彼女から自分の事を語るのが珍しいから何も言わずに聞くことにした。
「……てん…いや、親戚も応援きてくれてさ、初心者同士ながらも結構白熱したいい試合だった。けどさ、3セット目終盤、デュースし続けてやっとリードをとれたとき…あと一点。
でも、自分があげたボールがちょっと長くて仲間の手がカスりそうになったんよね」
小学生の試合で同点試合が続くなんて珍しい。
よほど全員集中力があったんだな、と感想を抱いた。
「またあのしんどい同点試合が続くのか…なんて思った。……けれどちゃんとその子は打ってくれた、ボールはど真ん中手のひらを捉えていた。
……もちろん予想だにしない光景だったから、2点先取でウチの勝ち」
「自分的にはトスミスしたから……打ったコがあの一瞬にメチャ頑張って取ってくれたのかなって納得した」
「キル決めたコに走って行ってありがとうを言いに行った。
…いろんな人からの激励に笑ったり、照れてた。でも私が声をかけたら、スルーされたんだよね。
一応、聞こえなかったかな??と思って片付け終わってから声をかけたよ」
『余計なことしたでしょ』
『え……何言ってるの?トスミスはごめんだけど…取れたじゃん』
『分かんない?ボールが勝手に手に吸い付いてきたんだよ………なにその顔、まあイイや、アンタ私をバカにしたコト、絶対許さないからね』
「勘が良かったのかバレたんだよね。多分ゾーンとかに入ってる時とか、すごい集中力で周りの動きがわかるんだろうね。多分あの人の視界で一つ、想定と違う動きだったのかな?」
「結果、私は無意識の内にボールを能力でコントロールしていたって気付いたんだ。いつからかわかんない、もしかしたらあの一瞬だけじゃない、デュースになってから……下手すればもっと前からかも。でも最後のあの瞬間、間違いなくアレは能力で触っていたいうことだけは気づかせてくれた」
「そのあとその子はクラブをやめて、別のスポーツに転向した」
「ムードメーカーで面白い子だったから周りの子は残念がってたな。なんだか自分の周りの人たちの視線が気になるように感じて、……ホントは自分の思い込みだったのかもしれないけど……結局私も後を追うように辞めてクラブの友人全員と疎遠になった」
「以後、翔陽に誘われるまで友達ゼロ!……中学デビューも大失敗!……高校ではこの通り持ち直してるように見えてやっぱり今も同級生はちょっと苦手」
「親戚はバレーやめたの残念がってさ。親戚のお母さん使って試合に連れまわしてくれたよ。迷惑なことにね。でも、お陰で君のお兄さん………明光に会ったんだ」
知ってる名前が出てきて思わず宇内さんの方を見た。
怒りの表情はちょっと和らいで、僕を……いや僕を通して兄ちゃんを見ているような表情だった。
「明光は私のバレーアレルギーを治してくれた人かな。ヤメてから、躍起になってグッズも全部処分したもの。
見たくも無い競技の試合でキョロキョロしてる私に構ってくれてさ、『バレー知らないです、初めて来ました』って感じのめんどくさい子を装ったのにさ、頑張って喋ろうとする感じがちょっと面白かったのを覚えてる」
兄ちゃんはいわゆるイイヒトだ。
きっと僕と同じくらいの子がつまんなそうにバレー見てたら絶対絡みに行く。眼に浮かぶ。
「それで兄貴と仲良いってワケ」
「そうー、超恩人。ちなみに初恋の人!」
「うわ。いらない情報」
「へへへ、そーね。あっその後ね、彼女さん?ぽい人と一緒にいるの見てすっぱり諦めたね」
「……今フリーだけど」
「あはは大丈夫。……お、もう森然着くね。巻き込んだ上、変な自分語りなんかしてすまんね」
「いいよ、なんか新鮮だったから」
「ふうん、はい。ここからは歩こ……あっいや、2人とも靴下だった。低空飛行」
体育館の通路横についたら、ホバークラフトのように地面から少し浮いてそのまま滑っていった。
この人は、人付き合いが得意だと思っていた。でも全然違くて、苦手を克服しようとしていたと分かった。
あと、なんで兄とこの人が顔見知りなのかと言う理由が思わず発覚した話だった。
「……帰るまでのちょっとした小話なんだけどさ」
「うん」
「僕、兄貴は少し苦手なんだよね、……性格も違うし、あんまり話さない」
「そうなんだ。ん、あれ……?明光からはそういう苦手意識みたいなものは感じなくて……むしろ慈しまられているように見受けられたけど」
「……仲は悪くはない。ただちょっと…ある事をキッカケに……僕があんまり関わらなくなったというか……」
「ふうん?」
「兄貴はさ、中学エースだったけど、烏野では3年居てもスタメンも入れなかった。……でも家族にはそれが言えず、ずっと抱え込んでいた」
「そっか…確かに会った時も応援席だったなあ」
「僕らには恥ずかしいって理由で公式試合は来るなっいってた。かけられた重たい期待と、学校での自分と板挟みになっていたんだと思う」
「ついに僕は、黙って試合に行って……応援席にいる兄貴を見た……エースどころかベンチにも居なかったのは……」
あの兄の表情を思い出すと今でも胸が軋む。
「なんかその時から色々どーでも良くなっちゃって。部活ごときに嘘をつかせてさ、何にも察せずガキみたいにはしゃいでた自分カッコ悪って思って……」
「あとさ……あんなに中学で凄かった兄ちゃんがさ、高校では箸にも棒にもかからないの見ると……もちろん三年間打ち込んでた……けど…現実はこんなもんかななんて……なんか、やる気はなくなんじゃん。ま、辞める程じゃないけどさ……」
「兄ちゃんは高校卒業してからもバレーやってるみたい。正直言うと、意味分かんない……最近ここにいる連中見てると兄ちゃん思い出すからちょっとだけ落ち着かない」
宇内さんが自分の事を話すのは珍しいけど、それに感化されたのか自分も随分珍しい姿を晒してしまった気になって少し恥じた。
「お兄さんへの負い目が、みたいなのがココで意識させられた感じかな。それはなんか…自主練くらいはスルーしたくなるね…」
「………」
「なんでバレーに関わり続けているんだろうね。ある意味トラウマの元なのにね。お互い」
「………」
「あとキミはさ、お兄ちゃんっ子だね。明光が羨ましいや。いい兄弟だね」
「そう、かな……」
けど、果たして自分は烏野でバレーを続ける意味なんてあるんだろうか。分からない。
元の宿舎に戻ってきた。会話も終わり。
ふとさっきから黙り込んでいる宇内さんが意を決したような顔になった。
「月島君、ねぇ」
「?」
「………私、月島君のこともまあまあ好きだよ!」
「!!………なにそれ…まあまあって……!」
真面目くさった顔で告白紛いの事をされたので普通に驚いた。はあ?何の意図で??
「多分キミは自分が思ってるよりいいヤツだよ」
「いやいやいや、なんでそうなるの………!」
なぜ宇内さんは突然誉め殺しをし始めたんだ??この状況とさっきまでの会話と、今が全然噛み合わなくて違和感しかない。
宇内さんはそんな僕を置き去りにして勝手に告白ショー??を続けている。
「ちゃんとヒトを見てる人に、出来ないことは無いね!多分月島君は明光よりバレー向きの性格だと思います!」
「……理解に苦しむ……」
宇内さんがあれーおかしいなーって顔をしているのも妙すぎて笑えてくる。
その「いいヤツ」評価は、自認するパーソナリティと違いすぎる。
恐らく置かれている状況から多分元気づけようとしているのだろうけどズレてる。致命的にズレている。
最終的に馬鹿(日向影山)の友人はやっぱりちょっとオカしい奴なのかもと評価が定まった気もする。
部屋に送ってもらい別れの挨拶をする頃には、消灯時間間際だった。
……頭のイライラは多少晴れたが、まだ解決には至らない。