サクラサク

3月10日

今日は3学期の修了式

「あーみちゃんっ!一緒に帰ろ」

廊下からまこちゃんに呼ばれて、自分の机に何も残していない事を確認してから席を立った。
いつもと変わらぬ放課後。
少し違うのは、明日から春休みということくらい。
毎年そうであるように、みんなそれぞれ自分のロッカーだった場所を空にして去っていく。次は誰が使うのかな?なんてほんの少しセンチメンタルな気分に浸ったりなんかもして。

うさぎちゃんは無事に留年回避できたと通知表を見てニコニコ顔。美奈子ちゃんはもう次の学年のクラス替えの話なんかしていて、気が早いわ。
春からみんな高校3年生。
そして、私もーー

「わ!亜美ちゃんお花もらったの?」
「ええ。クラスのみんながお祝いしてくれて。アルバムとかも。…びっくりしちゃった。」

春から、一年早く大学に進学する。
高校は2年で退学になるから、みんなと一緒に卒業式を迎えられない代わりにと、クラスメイトが寄せ書きとアルバムを作ってくれていた。

桜はまだ早いけれど、窓を開けると木蓮の白い花が満開になって、沈丁花の香りと共に春の訪れを感じさせてくれる。
「なんか本当の卒業みたいだね」
「教室で写真撮っていこうよ」

あっという間に過ぎてしまった2年間の高校生活。中学生の頃から十番町でみんなと同じセーラー服を着てきたけれど、うさぎちゃん達と出会って戦士として目覚めて、一緒に悩んだり苦しんだり、戦いと学業の両立に苦労した日々もこれで最後なのかと思うと、ちょっぴり切ない。

「あーみちゃんっ!クラウン寄ってくよね?」
「みんなでお祝いしよっ!」
「ゾイくんたちも呼んであるから」
うさぎちゃんたちが賑やかに誘う。そうだ、「放課後」があるのもこれで最後なんだわ。
靴箱を開けるとカタンと軽い音がして、見れば薄ピンク色の封筒がひとつ。
ああ、これはおそらく…
…ラブレター…だ。

誰から?なんで?
よりによって何故今日なの?
一瞬のうちに色々なことが頭の中を駆け巡り
キュウと胸を締め付けるような苦しさと共に身体が熱くなっていく。
(ーーいや…)
考えるのを止めよう、何も感じないように、冷静に。
そう思えば思うほどジンジンと焼けるような痛痒さが追いかけてきた。

――――――

「亜美ちゃん?どうしたの?…って、ちょっと見せて。ああーっ!」

なんとか辿り着いたクラウンで、身体の内側から疼くような不快感につい掻いてしまっていたら、不意に袖を捲られた。
こういう時、まこちゃんは気づくのが早いわ。
いつもより酷く腫れた私の肌を見て、眉尻を下げながら「こりゃぁもう今日は帰った方が良いんじゃない?」と促してくれた。でもね…。
大好きな4人の顔が心配そうにこちらを見ている事に耐えきれず、ティーカップに視線を落とした。

「――もう少し…ここに居たいわ。だって、もう今日でこうして集まれるのは最後なんだもの。」
「そうだけど、明日も会えるんだし」
「でも…用事もないのに…」
「へ?用が無くても会うでしょー?」
「亜美ちゃん、真面目。私達いつだって好きな時に会えるのよ?」
「そうよ?私だって、好きでなければ使命の為以外でこんな所までわざわざお茶しに来ないわよ。」
「レイちゃん辛辣ぅ」

その時、自動ドアが開いて今1番会いたかったのに会いたくない人がやってきた。

「退学おめでとう」
「何よそれ、なんだか嫌味っぽいわ。」
「そう?事実でしょ?それより、何かしらこの空気」
「あのねゾイくん、亜美ちゃんがね――」
「う、うさぎちゃん!」

私の放課後の出来事はあっという間に彼に知られてしまった。
「なにそれ!最終日にこんな可哀想なことある?誰!送り主は!」
「えっと…その…1組の…だったと思うけど…。いけない、どうしよう。連絡先なんて知らないのに、お返事も書けないわ」
「そーゆーところ!そういうクソ真面目で無駄に優しいところが――まぁ、アンタのいいところでもあるんだけど…とにかく、そんな手紙捨てちゃいなさい。」
私の手から手紙をヒョイと取り上げる彼を見ながら美奈子ちゃんとまこちゃんが小さく笑った。
「いま、ゾイくん心の声こぼれたよね?」
「メロメロだからね」
「そんなわけでこの子、体調悪いみたいなの。悪いけど送って行ってくださる?」
レイちゃんに鞄を取り上げられて、あっという間に席を立たされてしまった。
「また明日ね!」
無邪気に笑ううさぎちゃんの笑顔。

――そうね、「また明日」。
なんて心強い言葉かしら。

セーラー服を脱いでも、いつか「『美少女』戦士」なんて言えないお年頃になっても。
「また明日」
私達はいつも一緒よ。ね?
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