Outgrow
痛々しいほどに痩せ細ってもなお、母は美しかった。
あの日ーー
棺に備えられた真っ白なカサブランカは自慢の黒い髪を艶やかに引き立てていた。
(…ママ…)
「レイ、一緒に帰ろう」
そう言って差し出された手を思いきり叩いて、私はそこを飛び出した。
ーー嘘つき…!
あんなに待ち続けていたのに。あんなにパパの事を信じていたのに。今さら優しくしないで。
ニュース速報に映る「父」の姿は、まるで別人。地元の期待を一身に背負って奔走する期待の新人…ですって。
事務所の人達が慌てて私を追いかけてくる。数えるほどしか会ったこともないのに、どうしてそんなにスラスラと慰めの言葉が出てくるの?
空っぽの綺麗事を並べて媚び諂う大人たちと同じ空気を吸いたくないから、あの人とは一緒に暮らせない。
私は私のままでいたいの。
あれから数年
「神聖な場所」と言われるためかしら?都心とは思えないほどに、此処の空気は澄んでいて居心地が良い。
屋敷林からそよぐ風が髪を撫で、心の底から浄化されていく気がする。
成長するにつれ、色々なこともわかってきたわ。
父の仕事のことも、世の中のことも、
ーー私の周りに集まる人が、必ずしも好意的な心でお友達になろうとしているのではないということも…。
その力を自覚してからは余計に、ね。
だから、友達なんかいらないわ。
私はここで、静かにひとりで生きていくの。
そう思っていたのに…。
最近、ふいに脳裏に浮かぶあのビジョンは一体何なのかしら。
昨日、同じような髪型をした子を見たわ。
ゲーセンだなんて、あんな低俗な場所に入るモノ好きな子もいるのね。
…不穏な空気。
何か、とてつもない事が起こる予感。
見つけなくては!
…何を?
守らなければ!
…誰を?
嵐の前の静けさのような、漠然とした不安に襲われて落ち着かない。
ピリピリと感覚を研ぎ澄ませていたら、ただならぬ気配にフォボスたちが騒いで、とうとう来たと思ったのだけど
「悪霊退散!!」
渾身の力で放ったお札をおでこにくっくけて、「きゅう」と無防備に倒れているうさぎちゃん
拍子抜けするような出会いに、胸騒ぎの答えを得た気がしたけれど…何故かそれを上回る、キラキラとした引力のようなものを感じたの。