♡SS〜クリスタルトーキョー
6月30日
今日は一年で最もパレスが賑わう日
盛大に開かれたお祝いの宴には、次から次へと来賓たちが訪れる。
懐かしい友人、離れて暮らす大好きな家族たち。
そして、普段は滅多に会えないあの人も。
「お誕生日おめでとうございます。」
深々とお辞儀をしたその青年はーーそう、エリオス。顔を上げると、澄んだトパーズのような瞳が優しくスモールレディに微笑みかけた。
今日、あの子は彼と二人でお誕生日のお祝いをすることになっているの。
「スモールレディをお迎えに上がりました。本日はこのような貴重な時間を賜り、大変光栄です。」
私とキングに礼儀正しく挨拶をする、彼のほんの少し緊張した感じが伝わってきてくすぐったい。
スモールレディったら、少し照れくさそうね。
もう随分昔の事だけれど…私がまもちゃんと付き合いはじめた頃の事を思い出してしまうわ。
キングの方を見上げると、彼も同じような事を思ったのか、クスリと笑って私の肩を抱いた。
あの子は最近、急に大人びてきたわ。戦士として目覚め、過去の私たちと共に数えきれないくらいの喜びや悲しみを分かち合ってきてからは尚更に。
ーーもう、レディと名乗る日もそう遠くない。
外へ出ると、雨上がりの庭園にクチナシの甘い香りが広がっていた。
「滑りやすいので、気をつけて」
そう言って手を差し伸べるエリオスを、カルテットがキャッキャと黄色い歓声をあげて囃し立てている。
ふわりとピンク色のドレスの裾を揺らして階段を降りていくあの子の後ろ姿を追いながら、膝の上で甘えるおチビさんだった頃を思い出した。
初めて笑った日。
初めて私たちの名を呼んでくれた日。
貴女に泣かされた日も一度や二度ではないわね。
それに、初めて変身できた日のこと、
頼もしい戦士として駆けていった日のこと…。
「なんだか急に大きくなっちゃったわね。」
マーズたちが見送りながら、感慨深く溜息をついた。
「つい最近まで小さくて泣き虫の甘えん坊さんだったのに。」
「そうよ!こないだ『来年はデートでもしたら?』なーんて言ったのに、あっという間にどんだけ進展してるんだか!」
「ジャネの法則かしら。」
本当に、時が経つのはあっという間。だけど貴女と紡ぐ思い出は、ひとつも忘れたことは無いわ。どれもが私たちにとって大切な宝物だもの。
ふいに、キングが私の手をとった。
「立派なプリンセスになったな。」
「ふふ、寂しい?」
「少しな。でもそれ以上に、頼もしい。」
「そうね。エンディミオン、あなたのおかげよ?」
「どうかな。君が大切に育ててくれたおかげだと思うけど。」
「そうかしら。どちらにしても、産まれてきてくれてありがとうって、毎年のようにそう思うわ。」
あの子が、エリオスのペガサスに乗りながら、ふと振り返った。
「ママ、産んでくれてありがとう。」
ーーえ?
「あとお誕生日おめでとう!」
照れ隠しのようにそう付け加えると、軽やかに駆けて行った。
「あの子ったら、私たちの話が聞こえてたのかしら?」
驚いてキングと目を合わせ、お転婆なスモールレディに手を振った。
お祝いの宴はまだまだ続く。
「さ、戻ろうか。うさ。」
そんな懐かしい名で呼ばれたのはいつ以来だろうか。
思いがけない呼びかけについ、ほえ?と間の抜けたような声が出てしまったと思う。
次の瞬間、
翻ったマントで顔を隠して
ちゅ。とキスされた。
「うさもな。産まれてきてくれて、ありがとう。」
ほんの一瞬の出来事に、気づいた人はおそらく誰もいない。
フワリと離れていくラベンダー色のマントの香りが、唇に残る彼の体温とともに心地良い余韻を残していった。
今日は一年で最もパレスが賑わう日
盛大に開かれたお祝いの宴には、次から次へと来賓たちが訪れる。
懐かしい友人、離れて暮らす大好きな家族たち。
そして、普段は滅多に会えないあの人も。
「お誕生日おめでとうございます。」
深々とお辞儀をしたその青年はーーそう、エリオス。顔を上げると、澄んだトパーズのような瞳が優しくスモールレディに微笑みかけた。
今日、あの子は彼と二人でお誕生日のお祝いをすることになっているの。
「スモールレディをお迎えに上がりました。本日はこのような貴重な時間を賜り、大変光栄です。」
私とキングに礼儀正しく挨拶をする、彼のほんの少し緊張した感じが伝わってきてくすぐったい。
スモールレディったら、少し照れくさそうね。
もう随分昔の事だけれど…私がまもちゃんと付き合いはじめた頃の事を思い出してしまうわ。
キングの方を見上げると、彼も同じような事を思ったのか、クスリと笑って私の肩を抱いた。
あの子は最近、急に大人びてきたわ。戦士として目覚め、過去の私たちと共に数えきれないくらいの喜びや悲しみを分かち合ってきてからは尚更に。
ーーもう、レディと名乗る日もそう遠くない。
外へ出ると、雨上がりの庭園にクチナシの甘い香りが広がっていた。
「滑りやすいので、気をつけて」
そう言って手を差し伸べるエリオスを、カルテットがキャッキャと黄色い歓声をあげて囃し立てている。
ふわりとピンク色のドレスの裾を揺らして階段を降りていくあの子の後ろ姿を追いながら、膝の上で甘えるおチビさんだった頃を思い出した。
初めて笑った日。
初めて私たちの名を呼んでくれた日。
貴女に泣かされた日も一度や二度ではないわね。
それに、初めて変身できた日のこと、
頼もしい戦士として駆けていった日のこと…。
「なんだか急に大きくなっちゃったわね。」
マーズたちが見送りながら、感慨深く溜息をついた。
「つい最近まで小さくて泣き虫の甘えん坊さんだったのに。」
「そうよ!こないだ『来年はデートでもしたら?』なーんて言ったのに、あっという間にどんだけ進展してるんだか!」
「ジャネの法則かしら。」
本当に、時が経つのはあっという間。だけど貴女と紡ぐ思い出は、ひとつも忘れたことは無いわ。どれもが私たちにとって大切な宝物だもの。
ふいに、キングが私の手をとった。
「立派なプリンセスになったな。」
「ふふ、寂しい?」
「少しな。でもそれ以上に、頼もしい。」
「そうね。エンディミオン、あなたのおかげよ?」
「どうかな。君が大切に育ててくれたおかげだと思うけど。」
「そうかしら。どちらにしても、産まれてきてくれてありがとうって、毎年のようにそう思うわ。」
あの子が、エリオスのペガサスに乗りながら、ふと振り返った。
「ママ、産んでくれてありがとう。」
ーーえ?
「あとお誕生日おめでとう!」
照れ隠しのようにそう付け加えると、軽やかに駆けて行った。
「あの子ったら、私たちの話が聞こえてたのかしら?」
驚いてキングと目を合わせ、お転婆なスモールレディに手を振った。
お祝いの宴はまだまだ続く。
「さ、戻ろうか。うさ。」
そんな懐かしい名で呼ばれたのはいつ以来だろうか。
思いがけない呼びかけについ、ほえ?と間の抜けたような声が出てしまったと思う。
次の瞬間、
翻ったマントで顔を隠して
ちゅ。とキスされた。
「うさもな。産まれてきてくれて、ありがとう。」
ほんの一瞬の出来事に、気づいた人はおそらく誰もいない。
フワリと離れていくラベンダー色のマントの香りが、唇に残る彼の体温とともに心地良い余韻を残していった。