未来予想図
アレが出た。
普段は誰も立ち入らない資料庫の奥、今まで生きてきた中でほとんど出くわしたことがなかった、アレだ。
あまりの衝撃に意図せず悲鳴をあげてしまったらしい。驚いて駆けつけたマーキュリーは、ここでも状況判断がすばらしかった。
ゴーグルを出すより先にその姿を捕らえ、一撃で氷漬けにして倒した。
ここはまだ電子化されていない古い書物や歴史的な資料を保管するところ。貴重な品々を傷めないよう厳密に温湿度が管理され、年に一度はガス燻蒸が行われている。
しかし、先日運び込まれた埃っぽい古文書の山の中に、それは紛れ込んで入ってきたのだろう。
「だから搬入前にいちど燻蒸するべきだとあれほど言ったのに…」
言いながら片付ける手は微かに震えているけれど、彼女の周りからふつふつと湧き上がる殺気に戦慄を覚えた。
「ゾイサイト、ここの物いったん全部出して清掃しましょう。それからこの部屋も定例外だけれど燻蒸を…」
いくらなんでもそれはやりすぎでは?
…などと口を挟む余地もない。ニッコリ笑って「ね?」と同意を求められる。
「不衛生だわ。1匹見たら30匹いるって聞いた事があるの。」
片付けながら、はい、と手渡されたのは物騒なネーミングの超強力殺虫剤。
「今度は見つけたらちゃんと、すぐ殺してね」
おっとりとした微笑みに反して、淡々と発せられるハードな発言に背筋が凍った。