ビッグバン理論 Big Bang Theory

あーあ、アイツこんな所に女の子ナンパして連れてくるなんて。闇の四天王が聞いて呆れる。
 D国大使館の王女が来日した事に合わせて開かれる仮面舞踏会。今夜、この席で初めて披露されるD国の秘宝が幻の銀水晶ではないかとの情報を得て俺たちは大使館に潜入したのだけれど……。

「いいんだよ!お前たちもせいぜい時間が来るまでテキトーな子でも見つけて楽しみな。」
そう言って女の子と共に雑踏に消えて行くネフライトを見送りながら、オレはゾイサイトと顔を見合わせた。

「まあ、アイツの言う事も間違いではない、か。」

 ネフライトは仕事が早い。クンツァイトが秘宝を手に入れるまでの間、会場内の警備の目を散らす事が俺たち3人の役割だったはずだのだが、ネフライトの腕ひとつで開場前に現場の警備システムを全て制御し、警備員達も皆エナジーを抜いて我が物にしてしまったのだ。
 今やこの会場の警備は機能していない。仕事もなく手持ち無沙汰にふらつくなら、時間が来るまで会場の人間どもからエナジーを奪うのが適当なのだろう。
 仕方なく、俺たちは各々舞踏会の人混みの中に潜り込んでいった。

 皆それぞれに仮面をつけ、身分や事情も関係なく踊る。特別なお祝いに浮かれる会場は、どこか異世界のような空気さえあった。
 そんな賑やかなダンスホールでただひとり、誰とも踊らずにいる赤いドレスが目に止まった。
 背筋を伸ばし、凛と佇む黒い髪。まるでそこだけは神聖な空気が流れているかのように神秘的で、美しかった。

「誰かお探しですか?」
 自分でも意外なほど、考えるより先に声をかけてしまった。
「いいえ、別に。」
 目が合った途端、何かで打たれたような衝撃が胸を突く。
 なんだろう、この感覚は。どうしようもなく猛烈な引力に惹き込まれていくのを感じた。

「それなら、私と共にひとときのダンスを踊りませんか?」

「オトコに用は無くてよ!」
 そう言って払いのける手を引き止めて、再び深く傅いた。
 生意気そうなコト言ってるけど、そんな言葉が似合う子なんて今までいちども見たことがない。
 こんな衝動は初めてだった。貴女に近づきたい。どうしても。もっと近くに。

「今だけはそんなこと言わないで」
 華奢な手をとり見上げた彼女の頬は、照明のせいかほんのりと色づいていている。
「ほ……他の方にされたら?」
 気恥ずかしそうに目を逸らす横顔は態度に反して初々しく、可愛らしい。
 仮面越しには随分大人っぽく見えるけれど、よく見ればもしかしてまだ学生なのだろうか?そう思うと急に距離が近く感じた。
「キミにさせてよ。ボクもね、付き合いで来てるんだ。仕事だと思って一曲付き合ってよ」
「お仕事?」
「そ、コレは仕事。遊びじゃないってコトならいいでしょう?」
言いながら立ち上がると、視線の高さが逆転する。
「……もう」
 スンと苦笑して見上げる彼女。この視線をどこにもやりたくなくて、独り占めしたくて。
 時間の許す限り、キミと踊りたい。

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