5つのクリスマスナイト
☆ネフまこ
ローストチキンにリースのサラダ、パプリカのムースとイチゴをふんだんに使ったケーキ。
色鮮やかに飾られたテーブルのセンターにはピンクのバラとおそろいのグラスを置いて、2人でむかえるクリスマスパーティーの準備は完璧だった。それなのに。
約束の時間をとっくに過ぎても、部屋にいるのはあたし一人きり。
「遅れる」という連絡のひとつでもあればいくらでも待てるのに、「大丈夫?」と送ったメールの返信さえ来ない。こんな日の夜に1人きりで部屋にいるなんて、ね。
思い返せば両親を亡くしてからもいつだって、クリスマスの夜は誰かと一緒に過ごせていた。
でも…うさぎたちと出会うまで、親戚の家族と過ごしていたクリスマスは、どんなに賑やかで楽しくてもなんだか寂しくて、寒く感じたんだ。
だって、どこにいてもあたしはその家の子ではないのだから。
いつの日か、自分の家で、自分の家族と共に過ごす温かな夜があたしにも来たら良いな。
そんなささやかなあたしの夢は、まだ少し先かもしれない。
それにしてもアイツ遅いな。なにかトラブルにでも遭ったのだろうか?
気になって、再びスマホの画面を見たら、さっきのメールは既読になっていた。
――既読には、なっている…?
…もしかして…また、なのかな……。
ふと、数年前の苦い思い出が脳裏をかすめた。
センパイも、フラれる直前まで優しかったんだよな。大切な約束をした日だったのに、あたしだけ浮かれてさ…。
意図せず気持ちがマイナスに傾きかけたその時――
「悪い!遅くなった!!!」
バタンと勢いよく玄関のドアが開けらると同時にひんやりとした彼のコートに捕まえられた。
「うーっ!寒かったぁぁ!ごめんなまこと!どーしてもお客さん帰らなくて。接客中でスマホも取り出せる空気ではなかったから」
怒涛のような勢いでここまでしゃべり続けてようやく、我に帰って腕を緩めてくれた。
「――!ごめん、我慢できなくてつい。」
そう言って、あたしの頬に手を当てる。
ひんやりとした手袋ごしに彼の暖かさと安心感が伝わって、うっすらと視界が潤んだ。
「これ、テーブルに飾ろう。」
差し出されたのは可愛いピンクのバラの花束。一昨日あたしが買ってきたのとおんなじ色だ。
「ありがとう。入りきるかな?この前のがまだ飾ってあるんだけど…」
「ああ知ってるよ?だからそこに足すんだ。」
彼に促されるまま大きめの花瓶に花束を挿し替えると、テーブルの上は華やかというより威圧感さえ感じるくらい大きなバラに占拠された。
「あはは、すごいな。テーブルがバラで爆発してるみたいだ。」
着替えを終えた彼がテーブルのバラを見て笑ってる。
「お前が『足して』って言ったんだろ?もう飾ってあるの知ってたのに、なんで買い足してきたの?」
「知ってたから足したかったんだ。ほら、これで11本。」
「――え?」
「まあその…あんまりキザな台詞言えるガラでも無いんだけどな。とにかく、俺たちの家はいつもお前の好きな花でいっぱいにしていたいんだ。」
「あと一本はもっとバッチリきめた場所でやらせて」なんて照れ笑いで隠しながら、その響きが意味する重さに、心の底から温められていくのを感じた。
(11本のバラ――「最愛」)
ローストチキンにリースのサラダ、パプリカのムースとイチゴをふんだんに使ったケーキ。
色鮮やかに飾られたテーブルのセンターにはピンクのバラとおそろいのグラスを置いて、2人でむかえるクリスマスパーティーの準備は完璧だった。それなのに。
約束の時間をとっくに過ぎても、部屋にいるのはあたし一人きり。
「遅れる」という連絡のひとつでもあればいくらでも待てるのに、「大丈夫?」と送ったメールの返信さえ来ない。こんな日の夜に1人きりで部屋にいるなんて、ね。
思い返せば両親を亡くしてからもいつだって、クリスマスの夜は誰かと一緒に過ごせていた。
でも…うさぎたちと出会うまで、親戚の家族と過ごしていたクリスマスは、どんなに賑やかで楽しくてもなんだか寂しくて、寒く感じたんだ。
だって、どこにいてもあたしはその家の子ではないのだから。
いつの日か、自分の家で、自分の家族と共に過ごす温かな夜があたしにも来たら良いな。
そんなささやかなあたしの夢は、まだ少し先かもしれない。
それにしてもアイツ遅いな。なにかトラブルにでも遭ったのだろうか?
気になって、再びスマホの画面を見たら、さっきのメールは既読になっていた。
――既読には、なっている…?
…もしかして…また、なのかな……。
ふと、数年前の苦い思い出が脳裏をかすめた。
センパイも、フラれる直前まで優しかったんだよな。大切な約束をした日だったのに、あたしだけ浮かれてさ…。
意図せず気持ちがマイナスに傾きかけたその時――
「悪い!遅くなった!!!」
バタンと勢いよく玄関のドアが開けらると同時にひんやりとした彼のコートに捕まえられた。
「うーっ!寒かったぁぁ!ごめんなまこと!どーしてもお客さん帰らなくて。接客中でスマホも取り出せる空気ではなかったから」
怒涛のような勢いでここまでしゃべり続けてようやく、我に帰って腕を緩めてくれた。
「――!ごめん、我慢できなくてつい。」
そう言って、あたしの頬に手を当てる。
ひんやりとした手袋ごしに彼の暖かさと安心感が伝わって、うっすらと視界が潤んだ。
「これ、テーブルに飾ろう。」
差し出されたのは可愛いピンクのバラの花束。一昨日あたしが買ってきたのとおんなじ色だ。
「ありがとう。入りきるかな?この前のがまだ飾ってあるんだけど…」
「ああ知ってるよ?だからそこに足すんだ。」
彼に促されるまま大きめの花瓶に花束を挿し替えると、テーブルの上は華やかというより威圧感さえ感じるくらい大きなバラに占拠された。
「あはは、すごいな。テーブルがバラで爆発してるみたいだ。」
着替えを終えた彼がテーブルのバラを見て笑ってる。
「お前が『足して』って言ったんだろ?もう飾ってあるの知ってたのに、なんで買い足してきたの?」
「知ってたから足したかったんだ。ほら、これで11本。」
「――え?」
「まあその…あんまりキザな台詞言えるガラでも無いんだけどな。とにかく、俺たちの家はいつもお前の好きな花でいっぱいにしていたいんだ。」
「あと一本はもっとバッチリきめた場所でやらせて」なんて照れ笑いで隠しながら、その響きが意味する重さに、心の底から温められていくのを感じた。
(11本のバラ――「最愛」)