5つのクリスマスナイト
☆クン美奈
シャンパンゴールドのイルミネーションに彩られた並木道は、多くの人で賑わっていた。
見渡せば道のあちこちで写真を撮ったり手を繋いだりと嬉しそうなカップルたち…を横目に、私たちは淡々と光のトンネルを歩いている。
だいたい待ち合わせに現れた時だっていつもと同じだった。
そう、いつもと同じ。通常のタスクをこなすように待ち合わせ、予約している店まで迷うことも無くまっっすぐ向かってるんですけどね?
今日が何の日か分かってるの?イブよ?クリスマスイブ!いつもとは違うの!何のためにこんな所をわざわざ歩いてるのよ!少しはムードっていうか情緒とか風情とかワビとかサビとか感じたらどうなの?せっかくこーんな気合の入った格好してきたのに。
「そこ、曲がるぞ。」
彼に見せられた端末の画面には、華やかな並木道から逸れて国道沿いをお店まで目指すルートが示されていた。
ええ、分かります。分かりますよ?そっちを通った方が近くて効率的です。でもね、繰り返すけど、今日は特別な日じゃない!イルミネーションがあればそっちの道を選ぶとか、少しはデートらしくムードを楽しもうって思ったりしないワケ?
「――やだ。もう少しこっちの道歩いて行きたい。」
「もう充分楽しんだだろ?」
「まだ。だってせっかく来たんだもん!アンタこそなんでそんなに近道ばっかりしたがるの?」
「あと50m行っても景色は同じだろ?」
「そーゆー事じゃなくて!」
「――ハァ」
彼のため息が、白い雲を作って光の並木に溶けていった。
…何よ。せっかく来たのに。少しは周りの空気に合わせて浮かれたっていいのに。
繋いでいた手を解いて、あたしは1人で並木道を歩きだした。
「おい待てよ」という声が雑踏に溶けてゆく。
ほんの少し離れただけなのに、1人で歩いていると自覚した途端、ツンと孤独感が込み上げる
「クンツァイト…?」
振り返ると、後からついてくると思っていた彼の姿はもう人混みに紛れて見つからなくなっていた。
(あら?どうしよう、はぐれたかも。)
そうと分かると途端に不安になる。右も左も人、人、ヒト…。
あたりを見回していたら、不意に足を取られて視界が揺らいだ。
ガクンと膝が崩れて、一瞬のうちに私の体は転倒への覚悟を決めた――その途端。
抱き止められた腕が、いつも以上に逞しく感じられた。
路面のタイルに挟まったあたしのヒールを救い出して、脱げてしまったそれを私の足元に差し出す。
彼の仕草はまるでおとぎ話のワンシーンみたいだった。
「『特別な日』だから…こういう道を歩くのも良いけれど、今日はお前と2人だけの景色が見たかったんだ。」
ごめんな、と苦笑して立ち上がりポンと軽く頭を撫でる。ぜんぶ自分のせいにしてしまうような、そんな態度が憎らしかった。
「ほら、行くぞ。考えていたプランがあるんだ。」
少し強引に組まれた腕に有無を言わさず次の角で歩くコースを変えられて…。
その後のクリスマスデートは全部ぜんぶ、あたしの望んでた事なんてちっぽけに思えるほど、サプライズに満ちた夜へと変えられてしまった。
シャンパンゴールドのイルミネーションに彩られた並木道は、多くの人で賑わっていた。
見渡せば道のあちこちで写真を撮ったり手を繋いだりと嬉しそうなカップルたち…を横目に、私たちは淡々と光のトンネルを歩いている。
だいたい待ち合わせに現れた時だっていつもと同じだった。
そう、いつもと同じ。通常のタスクをこなすように待ち合わせ、予約している店まで迷うことも無くまっっすぐ向かってるんですけどね?
今日が何の日か分かってるの?イブよ?クリスマスイブ!いつもとは違うの!何のためにこんな所をわざわざ歩いてるのよ!少しはムードっていうか情緒とか風情とかワビとかサビとか感じたらどうなの?せっかくこーんな気合の入った格好してきたのに。
「そこ、曲がるぞ。」
彼に見せられた端末の画面には、華やかな並木道から逸れて国道沿いをお店まで目指すルートが示されていた。
ええ、分かります。分かりますよ?そっちを通った方が近くて効率的です。でもね、繰り返すけど、今日は特別な日じゃない!イルミネーションがあればそっちの道を選ぶとか、少しはデートらしくムードを楽しもうって思ったりしないワケ?
「――やだ。もう少しこっちの道歩いて行きたい。」
「もう充分楽しんだだろ?」
「まだ。だってせっかく来たんだもん!アンタこそなんでそんなに近道ばっかりしたがるの?」
「あと50m行っても景色は同じだろ?」
「そーゆー事じゃなくて!」
「――ハァ」
彼のため息が、白い雲を作って光の並木に溶けていった。
…何よ。せっかく来たのに。少しは周りの空気に合わせて浮かれたっていいのに。
繋いでいた手を解いて、あたしは1人で並木道を歩きだした。
「おい待てよ」という声が雑踏に溶けてゆく。
ほんの少し離れただけなのに、1人で歩いていると自覚した途端、ツンと孤独感が込み上げる
「クンツァイト…?」
振り返ると、後からついてくると思っていた彼の姿はもう人混みに紛れて見つからなくなっていた。
(あら?どうしよう、はぐれたかも。)
そうと分かると途端に不安になる。右も左も人、人、ヒト…。
あたりを見回していたら、不意に足を取られて視界が揺らいだ。
ガクンと膝が崩れて、一瞬のうちに私の体は転倒への覚悟を決めた――その途端。
抱き止められた腕が、いつも以上に逞しく感じられた。
路面のタイルに挟まったあたしのヒールを救い出して、脱げてしまったそれを私の足元に差し出す。
彼の仕草はまるでおとぎ話のワンシーンみたいだった。
「『特別な日』だから…こういう道を歩くのも良いけれど、今日はお前と2人だけの景色が見たかったんだ。」
ごめんな、と苦笑して立ち上がりポンと軽く頭を撫でる。ぜんぶ自分のせいにしてしまうような、そんな態度が憎らしかった。
「ほら、行くぞ。考えていたプランがあるんだ。」
少し強引に組まれた腕に有無を言わさず次の角で歩くコースを変えられて…。
その後のクリスマスデートは全部ぜんぶ、あたしの望んでた事なんてちっぽけに思えるほど、サプライズに満ちた夜へと変えられてしまった。