悩める彼ら
〜亜美の憂鬱〜
戦士として目覚め、大好きな人たちを守るためにこの命を捧げると誓ってから幾度かの大きな闘いがあって…最後に私たちはコルドロンの海に溶けた。
――あれからなんだか色々あったけれど、いま私たちはようやく取り戻した平和なこの星で、2度目の十番高校二年生を過ごしている。
「平和」って、こんな悩みで煩わされる事なのかしら。
入学前から入るならココと決めていたコンピューター部は、ゲームの好きな男子ばかり。
もう少しお勉強したり新しい情報を入れて切磋琢磨できる環境だと思っていたのに、真面目な話をするとみんな曖昧に笑って逃げてしまう。
もう辞めてしまおうかと思っても部員もギリギリで辞めるにやめられないだなんて、地球の平和を脅かす敵の存在や未来の事で文字通り命がけだった日々からすると全く危機感のない悩み事だわ。
そんな理由もあって最近少し足が遠のいていたのだけれど…。
久しぶりに部室のドアを開けたら、一台のデスクトップに集まって何かを見ている男子たちがいっせいに顔を上げた。
バッと蜘蛛の子を散らすように各々の端末に向かう部員たち。ゲームのお話でもしていたのかしら?
ただ1人、ウィンドウが閉じなくなってしまったらしく慌てる彼のデスクトップに近づいてみると
…女の人の、あられもない姿が映し出されていた。
「――やだ…」
空気の凍りつく部室。足がすくんで動けない。
そんな最悪のタイミングで、フリーズしていたパソコンが動き出した。
静まり返ったコンピュータールームに艶かしい声がやけに大きく響く。
「!!」
後ろで誰かに呼び止められたような気はしたけれど、そんな声も耳に入らず転げるように部室を飛び出した。
何あれ!どういう事!?みんなパソコンであんな物見ていたの?学校のパソコンで?
いつも平然と話しかけてくるその頭で…そんな事を考えていたの!?
逃げるように図書室へ駆け込んだものの、デスクトップに映し出されたあの画像がフラッシュバックしてなんとも言えない嫌悪感が込み上げる。
ダメね、こんな有様ではきっとお勉強も捗らないわ…。
出したばかりの参考書を再び鞄に戻して、あてもなく校舎を後にした。
天気予報では夜から強い雨が降ると言っていたのに、こんな日に限って予報ははずれたらしく、あっという間に本降りになってしまった。
商店街を彷徨うようにふらついて、気がつくとまこちゃんの家の前にいた。
だって、まっすぐ家に帰ってもきっと独りでいたらさっきの事を思い出してしまうし、誰かと話して気を紛らわしたいんだもの。まこちゃんなら聞いてくれると思うから。
そんな言い訳を胸にインターホンを鳴らした。
――ピンポン
「おう、お帰り。…って、あぁ!?ごめ…」
「!!!キャァッ!!」
…一瞬、息が止まった。
まこちゃんが出てくると思った扉から現れたのは、ウェーブのかかった髪を濡らしたネフライト。それも腰にタオルを一枚巻いた、だけの…!?
ああ、なんというタイミングで来てしまったのかしら!私のバカ!!
「あ、亜美ちゃん。どーしたの?」
エレベーターホールからまこちゃんの声がしたような気がするけれど、振り向く事もできずに階段を駆け下りた。
もう何もかも思考が追いつかない。どうしよう。どうしよう。
――ーーー
〜美奈子はうさぎとクラウンで〜
「見てよこれ!」
「わーカッコいい!」
「でしょ!?ファンクラブ会員限定イベント、行くしかないわよね!」
「でもコレちょっと遠くない?大阪だよ?」
「そーなのよ。でね、始発で行くのもアリだけどせっかくなら前泊して遊んで行きたくない?」
「いいじゃん!行くいくー!いつだっけ?」
「5月20日」
「…美奈P…それ、中間試験の日だよ…」
「へ?…って、ええっ!?うっそ忘れてた!どーしよう」
今日出たばかりのアイドル情報誌をクラウンで広げながらうさぎとおしゃべりしていたら、ひょいと雑誌を取り上げられた。
「『どうすんの』ってアンタたち、何をどうするつもりなの?試験って、フフッ。」
「げ」
「ゾイサイト。どしたの?なんでココにいるの?」
「バイトまで時間があるからね。暇つぶし。」
どこか中性的な雰囲気をまとう彼は、J医科大学の2年生。お金にはそんな困ってなさそうだし家も大学のすぐ近くなのに、わざわざ十番のあたりでバイトをするのは亜美ちゃんの近くにいるための口実なんでしょうね。
くっついているんだかいないんだか、んもう、見ててじれったいったらないわ。
すましたカオして余裕ぶってる態度がなーんか気に食わないけど、あたしだってあんたの弱いとこ知ってるんだからね。そう、例えばこんなふうに。
「そーいえば亜美ちゃん、今日は珍しく部活行ったみたいね」
「うん。珍しいよね。亜美ちゃんがあんなに分かりやすく部活サボってるの。入学したときはとっても楽しみにしてたのにね」
「――へぇ。あの子何部なの?」
ほーらね、私が亜美ちゃんの話題を振ればこの食いつき。飄々としてるようで彼女のこととなると無意識に目の色が変わるの、ちょろいもんだわ。
「コンピューター部だよ。男子はみんなゲームばっかり、女子は亜美ちゃんしかいなくて部員数もギリギリだから辞めるにやめられないんだって。」
「はぁ?なんでそんなオトコばっかの部活に入ってんの?」
のんびりと応えたうさぎの話に、キレ気味なゾイくん。動揺がわかりやすいったら。
クンツァイトが「あいつは放っておけない」って言ってたのはこーゆーところがあるからだわ。
そこへまこちゃんとネフライトが駆け込んできた。
「あ、いたいた。美奈、亜美ちゃん見なかった?」
「おい!ゾイサイト!あの子、亜美ちゃん見なかったか?このままだとオレはとんでもない誤解をされてる気がする!」
「なんで?」
「あれ?亜美ちゃん、部活じゃなくてまこちゃんちに行ってたの?」
「それが来たみたいなんだけど、あたしネフライトが急に来たから飲み物買いに行っててさ」
「あぁ、急に雨に降られたからな。そんで俺がシャワー借りてたタイミングで鉢合わせちったから、きゃーって言ってどっか行っちゃって」
「うわ」
「やばw」
なんだか傍目には愉快なハプニングだけど、亜美ちゃん相当びっくりしたんじゃないのかしら。
案の定、ガタンと立ち上がったゾイサイトが血相を変えてネフライトに詰め寄った。
「何やってんのよ!ちゃんと追いかけて謝んなさいよ!」
「いや、そのまま追いかけたらオレ変態じゃん。裸だし」
「ほんっとサイテー!!」
どこかへ探しに行くのか、急いで外へ出ようとしたところで入ってきた衛さんとクンツァイトと鉢合わせたゾイサイト。
「どうしたんだ?そんなに慌てて」
「亜美が!ハダカのネフライトに追いかけられて!!」
「――は?」
「おいネフライト、どういう事だ?」
「聞いてマスター!あいつ全裸で!!」
「バカ!声がでかい!タオルは巻いてた!」
「「ネフライト!!?」」
「だから!違うって!!」
――ーーー
〜火川神社にて。レイ〜
帰ってきたら、軒先にポツンと雨宿りをしている亜美ちゃんがいた。
「珍しいわね。こんな所で雨宿り?」
言いながら手元に小さく畳まれた折りたたみ傘を提げているのを見て、私に用事があることはすぐに察しがついたけど。
「上がって。」
――うん、と力なく応えて笑うその顔は、なんだか少し元気が無いみたい。
そういえば久しぶりね、亜美ちゃんと2人だけでウチにいるなんて。みんなで集まる時はたいていまこちゃんの家だし、私の家に来るのが多いのはどちらかというと美奈の方。それも勝手に上がり込んでるのよね。
でも、まだ戦士として目覚めたばかりの頃はよくこうして2人でルナを交えて色々なことお話したっけ。
迎え入れてくれたジェダイトにお茶の用意を頼んで、私の部屋の襖を閉めた。
よく見ればほんの少しだけ手が震えている。いつも冷静な亜美ちゃんがこういう取り乱し方をするのは、ラブレターとかそんな類の話じゃないかしら?と言っても蕁麻疹は出ていないみたいだけれど。
こういう話は私だって得意ではないのに、どうして私の所に来たのかしら。
クッションを手渡すとそれを胸元に抱えて小さく座り込んだ亜美ちゃん。しばらくそうして背を丸めていたが、やがて、少し落ち着くとポツリポツリと独り言のように話し始めた。
「…あたし、男子って少し苦手かも。」
「どうしたの(今さら?)まるで小学生みたいな言い方ね。」
「ふふ、そうかも。でも…ね、ちょっと私、動揺してしまって。学校行きずらいな、なんて思ってしまって。」
「珍しいじゃない。誰かに嫌な事でもされたの?」
「ううん、そうじゃないの…。いや…そうじゃないんだけど、なんていうか…」
「よく分からないわ。」
「あの…ね。久しぶりに部活に行ったらね…その…男子たちが…えっ…えっちな動画を見ていて。」
そこまで言うと居た堪れずにクッションの中に顔を埋めた彼女。
なるほど、それは確かにショッキングだわ。女子校育ちの私には経験のない事だけれど、想像しただけで嫌悪感が湧く。
ぽそぽそと話しはじめたそれを聞いてみると、どうやら相手はクラスメイトのようだし、明日からまた彼らと顔を合わせなければならないんですもの。共感、というか同情さえしてしまうわ。
「明日からはその人たちのこと、相手にしないで良いんじゃなくて?もう部活も辞めちゃえばいいじゃない。どうせその部活だってオトコたちの溜まり場にしかなってないんでしょう?気にしてるだけ時間の無駄よ。」
「ふふ、良かった。時間の無駄とまでは言えないけど、レイちゃんには共感してもらえると思ったから。」
「分かるわよ。亜美ちゃんこそ女子校行けばよかったのに。バカみたいにうるさいのが居ないって気楽よ?」
「レイちゃん、男子というだけで辛辣ね。」
私の言い方が無意識にキツくなっていたらしく、少し慌てた様子の亜美ちゃん。でも、私間違ったことは言ってないんじゃなくて?
「あら、そうかしら?オトコなんてホント単純で品のない人が多くて相手にするだけ時間の無駄じゃない。…ほんのひと握りよ、まともに話が通じるのは。」
オトコ、という括りで思いつく限りの顔を思い浮かべながら、ふと彼の横顔がチラついて頬が緩んだ。
「そんなふうに思ってるレイちゃんが選んだのだから、ジェダイトさんって、とても素敵な人なのね。」
「やめてよ。あたし、あの人の事オトコとして見えてないの。」
「…そう…なの?」
(そうよ?男とか女とか関係なく、1人の人間として。いいえ、それ以上に何物にも変え難い存在として、彼は特別なのよ。)
――うっかりそこまで言いかけたところで、襖の向こうから微かにカチャンと茶器の鳴る音がした。
…おじいちゃんから最近彼がジムに通い始めたと聞いたのは、それから少ししてからの話。
戦士として目覚め、大好きな人たちを守るためにこの命を捧げると誓ってから幾度かの大きな闘いがあって…最後に私たちはコルドロンの海に溶けた。
――あれからなんだか色々あったけれど、いま私たちはようやく取り戻した平和なこの星で、2度目の十番高校二年生を過ごしている。
「平和」って、こんな悩みで煩わされる事なのかしら。
入学前から入るならココと決めていたコンピューター部は、ゲームの好きな男子ばかり。
もう少しお勉強したり新しい情報を入れて切磋琢磨できる環境だと思っていたのに、真面目な話をするとみんな曖昧に笑って逃げてしまう。
もう辞めてしまおうかと思っても部員もギリギリで辞めるにやめられないだなんて、地球の平和を脅かす敵の存在や未来の事で文字通り命がけだった日々からすると全く危機感のない悩み事だわ。
そんな理由もあって最近少し足が遠のいていたのだけれど…。
久しぶりに部室のドアを開けたら、一台のデスクトップに集まって何かを見ている男子たちがいっせいに顔を上げた。
バッと蜘蛛の子を散らすように各々の端末に向かう部員たち。ゲームのお話でもしていたのかしら?
ただ1人、ウィンドウが閉じなくなってしまったらしく慌てる彼のデスクトップに近づいてみると
…女の人の、あられもない姿が映し出されていた。
「――やだ…」
空気の凍りつく部室。足がすくんで動けない。
そんな最悪のタイミングで、フリーズしていたパソコンが動き出した。
静まり返ったコンピュータールームに艶かしい声がやけに大きく響く。
「!!」
後ろで誰かに呼び止められたような気はしたけれど、そんな声も耳に入らず転げるように部室を飛び出した。
何あれ!どういう事!?みんなパソコンであんな物見ていたの?学校のパソコンで?
いつも平然と話しかけてくるその頭で…そんな事を考えていたの!?
逃げるように図書室へ駆け込んだものの、デスクトップに映し出されたあの画像がフラッシュバックしてなんとも言えない嫌悪感が込み上げる。
ダメね、こんな有様ではきっとお勉強も捗らないわ…。
出したばかりの参考書を再び鞄に戻して、あてもなく校舎を後にした。
天気予報では夜から強い雨が降ると言っていたのに、こんな日に限って予報ははずれたらしく、あっという間に本降りになってしまった。
商店街を彷徨うようにふらついて、気がつくとまこちゃんの家の前にいた。
だって、まっすぐ家に帰ってもきっと独りでいたらさっきの事を思い出してしまうし、誰かと話して気を紛らわしたいんだもの。まこちゃんなら聞いてくれると思うから。
そんな言い訳を胸にインターホンを鳴らした。
――ピンポン
「おう、お帰り。…って、あぁ!?ごめ…」
「!!!キャァッ!!」
…一瞬、息が止まった。
まこちゃんが出てくると思った扉から現れたのは、ウェーブのかかった髪を濡らしたネフライト。それも腰にタオルを一枚巻いた、だけの…!?
ああ、なんというタイミングで来てしまったのかしら!私のバカ!!
「あ、亜美ちゃん。どーしたの?」
エレベーターホールからまこちゃんの声がしたような気がするけれど、振り向く事もできずに階段を駆け下りた。
もう何もかも思考が追いつかない。どうしよう。どうしよう。
――ーーー
〜美奈子はうさぎとクラウンで〜
「見てよこれ!」
「わーカッコいい!」
「でしょ!?ファンクラブ会員限定イベント、行くしかないわよね!」
「でもコレちょっと遠くない?大阪だよ?」
「そーなのよ。でね、始発で行くのもアリだけどせっかくなら前泊して遊んで行きたくない?」
「いいじゃん!行くいくー!いつだっけ?」
「5月20日」
「…美奈P…それ、中間試験の日だよ…」
「へ?…って、ええっ!?うっそ忘れてた!どーしよう」
今日出たばかりのアイドル情報誌をクラウンで広げながらうさぎとおしゃべりしていたら、ひょいと雑誌を取り上げられた。
「『どうすんの』ってアンタたち、何をどうするつもりなの?試験って、フフッ。」
「げ」
「ゾイサイト。どしたの?なんでココにいるの?」
「バイトまで時間があるからね。暇つぶし。」
どこか中性的な雰囲気をまとう彼は、J医科大学の2年生。お金にはそんな困ってなさそうだし家も大学のすぐ近くなのに、わざわざ十番のあたりでバイトをするのは亜美ちゃんの近くにいるための口実なんでしょうね。
くっついているんだかいないんだか、んもう、見ててじれったいったらないわ。
すましたカオして余裕ぶってる態度がなーんか気に食わないけど、あたしだってあんたの弱いとこ知ってるんだからね。そう、例えばこんなふうに。
「そーいえば亜美ちゃん、今日は珍しく部活行ったみたいね」
「うん。珍しいよね。亜美ちゃんがあんなに分かりやすく部活サボってるの。入学したときはとっても楽しみにしてたのにね」
「――へぇ。あの子何部なの?」
ほーらね、私が亜美ちゃんの話題を振ればこの食いつき。飄々としてるようで彼女のこととなると無意識に目の色が変わるの、ちょろいもんだわ。
「コンピューター部だよ。男子はみんなゲームばっかり、女子は亜美ちゃんしかいなくて部員数もギリギリだから辞めるにやめられないんだって。」
「はぁ?なんでそんなオトコばっかの部活に入ってんの?」
のんびりと応えたうさぎの話に、キレ気味なゾイくん。動揺がわかりやすいったら。
クンツァイトが「あいつは放っておけない」って言ってたのはこーゆーところがあるからだわ。
そこへまこちゃんとネフライトが駆け込んできた。
「あ、いたいた。美奈、亜美ちゃん見なかった?」
「おい!ゾイサイト!あの子、亜美ちゃん見なかったか?このままだとオレはとんでもない誤解をされてる気がする!」
「なんで?」
「あれ?亜美ちゃん、部活じゃなくてまこちゃんちに行ってたの?」
「それが来たみたいなんだけど、あたしネフライトが急に来たから飲み物買いに行っててさ」
「あぁ、急に雨に降られたからな。そんで俺がシャワー借りてたタイミングで鉢合わせちったから、きゃーって言ってどっか行っちゃって」
「うわ」
「やばw」
なんだか傍目には愉快なハプニングだけど、亜美ちゃん相当びっくりしたんじゃないのかしら。
案の定、ガタンと立ち上がったゾイサイトが血相を変えてネフライトに詰め寄った。
「何やってんのよ!ちゃんと追いかけて謝んなさいよ!」
「いや、そのまま追いかけたらオレ変態じゃん。裸だし」
「ほんっとサイテー!!」
どこかへ探しに行くのか、急いで外へ出ようとしたところで入ってきた衛さんとクンツァイトと鉢合わせたゾイサイト。
「どうしたんだ?そんなに慌てて」
「亜美が!ハダカのネフライトに追いかけられて!!」
「――は?」
「おいネフライト、どういう事だ?」
「聞いてマスター!あいつ全裸で!!」
「バカ!声がでかい!タオルは巻いてた!」
「「ネフライト!!?」」
「だから!違うって!!」
――ーーー
〜火川神社にて。レイ〜
帰ってきたら、軒先にポツンと雨宿りをしている亜美ちゃんがいた。
「珍しいわね。こんな所で雨宿り?」
言いながら手元に小さく畳まれた折りたたみ傘を提げているのを見て、私に用事があることはすぐに察しがついたけど。
「上がって。」
――うん、と力なく応えて笑うその顔は、なんだか少し元気が無いみたい。
そういえば久しぶりね、亜美ちゃんと2人だけでウチにいるなんて。みんなで集まる時はたいていまこちゃんの家だし、私の家に来るのが多いのはどちらかというと美奈の方。それも勝手に上がり込んでるのよね。
でも、まだ戦士として目覚めたばかりの頃はよくこうして2人でルナを交えて色々なことお話したっけ。
迎え入れてくれたジェダイトにお茶の用意を頼んで、私の部屋の襖を閉めた。
よく見ればほんの少しだけ手が震えている。いつも冷静な亜美ちゃんがこういう取り乱し方をするのは、ラブレターとかそんな類の話じゃないかしら?と言っても蕁麻疹は出ていないみたいだけれど。
こういう話は私だって得意ではないのに、どうして私の所に来たのかしら。
クッションを手渡すとそれを胸元に抱えて小さく座り込んだ亜美ちゃん。しばらくそうして背を丸めていたが、やがて、少し落ち着くとポツリポツリと独り言のように話し始めた。
「…あたし、男子って少し苦手かも。」
「どうしたの(今さら?)まるで小学生みたいな言い方ね。」
「ふふ、そうかも。でも…ね、ちょっと私、動揺してしまって。学校行きずらいな、なんて思ってしまって。」
「珍しいじゃない。誰かに嫌な事でもされたの?」
「ううん、そうじゃないの…。いや…そうじゃないんだけど、なんていうか…」
「よく分からないわ。」
「あの…ね。久しぶりに部活に行ったらね…その…男子たちが…えっ…えっちな動画を見ていて。」
そこまで言うと居た堪れずにクッションの中に顔を埋めた彼女。
なるほど、それは確かにショッキングだわ。女子校育ちの私には経験のない事だけれど、想像しただけで嫌悪感が湧く。
ぽそぽそと話しはじめたそれを聞いてみると、どうやら相手はクラスメイトのようだし、明日からまた彼らと顔を合わせなければならないんですもの。共感、というか同情さえしてしまうわ。
「明日からはその人たちのこと、相手にしないで良いんじゃなくて?もう部活も辞めちゃえばいいじゃない。どうせその部活だってオトコたちの溜まり場にしかなってないんでしょう?気にしてるだけ時間の無駄よ。」
「ふふ、良かった。時間の無駄とまでは言えないけど、レイちゃんには共感してもらえると思ったから。」
「分かるわよ。亜美ちゃんこそ女子校行けばよかったのに。バカみたいにうるさいのが居ないって気楽よ?」
「レイちゃん、男子というだけで辛辣ね。」
私の言い方が無意識にキツくなっていたらしく、少し慌てた様子の亜美ちゃん。でも、私間違ったことは言ってないんじゃなくて?
「あら、そうかしら?オトコなんてホント単純で品のない人が多くて相手にするだけ時間の無駄じゃない。…ほんのひと握りよ、まともに話が通じるのは。」
オトコ、という括りで思いつく限りの顔を思い浮かべながら、ふと彼の横顔がチラついて頬が緩んだ。
「そんなふうに思ってるレイちゃんが選んだのだから、ジェダイトさんって、とても素敵な人なのね。」
「やめてよ。あたし、あの人の事オトコとして見えてないの。」
「…そう…なの?」
(そうよ?男とか女とか関係なく、1人の人間として。いいえ、それ以上に何物にも変え難い存在として、彼は特別なのよ。)
――うっかりそこまで言いかけたところで、襖の向こうから微かにカチャンと茶器の鳴る音がした。
…おじいちゃんから最近彼がジムに通い始めたと聞いたのは、それから少ししてからの話。