はじめの頃の

彼女らとの待ち合わせ場所は、いつも以上に混んでいた。

 すれ違いざまに肩の触れた男が舌打ちをして振り返る。弱い犬ほど吠えるとはよく言ったものだ。頭ひとつ分高い目線からじろりと一瞥すると、彼はそそくさと人混みの中に消えていった。

 うだるような暑さはそれだけで意味もなく苛つかせる。きっとあの男も暑さのせいでゆとりをなくしているのだろう。
 やれやれ、とため息をつきながら、広がる髪を後ろでひとつに束ねた。

 人より背が高いと、無意識のうちに屈みがちだ。見晴らしは良いのに下を見る事が多く、少し客観的に見下ろす人混みはかえって鬱陶しい。
 お団子頭がマスターに手を引かれながら「何も見えないよ〜」などと言いながらもみくちゃにされていたけれど、何も見えなければむしろ諦めもついて苛立つ事もないのではないかと思ったりもする。
 
「お、いたいた。」

 鮮やかな浴衣に身を包み、嬉しそうに語らう女の子たち。
 その中で、ひときわスラリと背が高い後ろ姿に頬が緩む。

 真っ直ぐに伸びた背筋と、その上で微かに襟足を撫でるポニーテールが清々しい。
 手を振る彼女につられて、こちらも自然と背筋が伸びる。

 屈んでいた胸に夏の空気が一気に流れ込んだ。
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