手をつなご
久しぶりのデートはあっという間に終わり、車は港区方面に向けて走り出していた。ガッコーにいると1日が長いのに、この人といるとどうしてすぐ夜になってしまうのだろう。
「あーあ、もう着いちゃう。まだ帰りたくなかったのにな。なんなら泊まっても良いのよ?」
なんて名残惜しさをぶつけてみたけれど
「明日は朝練あるんだろ?早く帰って寝なさい。」
って冷静に突き放された。
「えー。あと少しだけでいいからドライブしてよ」
「ダメだ、もうこんな時間だろ。朝早いのもあるが、親御さんの信頼無くすワケにはいかない。」
「ケチ」
なによ。つまんないヤツ。せっかくいいムードにもなれそうなシチュエーションだっていうのに、こんな時でさえ冷静なんだから。少しはこっち見なさいよ。前ばっか向いてさ。いや運転中だからなんだけどさ。
あたしが黙ると車内はオーディオから流れる音楽と雨音だけ。もし音がなかったら、ケンカしてるみたいな空気にさえなってたかもしれない。プイッと顔を背けて窓の外を見ていたら、シフトレバーに置かれていた彼の手があたしの手を捕まえた。
「週末は待ってるから。な。」
繋がれた手に力がこもる。2人の手はそのまま彼の方に引き寄せられて、膝の上で握り直された。指先であたしの爪を撫で、絡めなおして手の甲を包み、再び指の腹をなぞる。指先を一本ずつ辿り、時々道を外したかのように彼の爪が指の間を擦る…。雨音が激しくなって、改めてここが密室であることに気がつくと身体の中から熱くなった。
「――ずるいわ。」
顔を上げると、視線だけこちらに向けて微笑んだ彼の横顔に街灯の明かりが当たり、柔らかなシルエットになっていた。