手をつなご
「ねえ、あれ亜美ちゃんとゾイサイトじゃない?」
図書館の前で、一緒に歩いていた美奈が急に立ち止まりピタッと電柱に張り付いた。
「ホントだ。今帰るところかな?」
「シーっ!まこちゃんも早く!こっちこっち!」
「それじゃまるで尾行じゃないか。」
「いいじゃない!こんなトコ滅多に見られないんだし。それにほら、アタシいちおー恋の女神だし?気にかけてあげないと♪」
なんちゅーゴシップ好きな恋の女神か。こんな場面を嗅ぎ当てるとは、まるで特殊能力だ。
付き合ってもう数ヶ月経つのに、スキャンダルの当事者になる事を好まない彼女のおかげかあのカップルの目撃情報はとても少なかった。いや、2人で歩いてるところはもちろん見かけるんだけど…なんだろ、淡々と並んで歩くただの知り合いみたいな?そんなふうに見えてちっとも恋人同士っていう感じは見せない。それなのに今、図書館から出てきた2人は美奈の言う通り「いかにも恋人同士っぽい」雰囲気なのだ。
亜美ちゃんは沢山の本を借りたらしく、肩から下げた帆布のバッグが重たそう。それを、後ろから追いついたゾイサイトが何も言わずにヒョイと取り上げて持ってあげた。「ありがとう」って言ってるのかな、亜美ちゃんがニコッと笑ってゾイサイトを見上げている。
「なんかさ、ゾイサイトと付き合いだしてから亜美ちゃんもだいぶ柔軟になったよね。」
「ホントに。前まではあんな事されたらすーぐ真っ赤になってたのにね。」
「そんな亜美ちゃんも可愛かったんだけどなぁ」
「――ちょっ!…あいつ、やるわね…!」
あたしの言葉を遮って、美奈が食い気味に身を乗り出した。
バッグを預けて空いた亜美ちゃんの手を取ると、壁側に彼女を引き寄せた。亜美ちゃん、ごく自然にそれに応じてる…。いや、ホント周りに人が居ないからとはいえ、すごい変わったよね、亜美ちゃん。
それからゾイサイトの口が何かを話して、亜美ちゃんが腕時計を見せてあげた。時間を聞かれたのかな?その手をとって「どれどれ?」とでも言うように腕時計を眺めて…って、もうしれっと両手繋いじゃってるじゃん。
「あの男、うまいこと亜美ちゃん飼い慣らしたわよね」
尊いけどさぁ、と加えつつ隣で美奈が悔しそうに呟いた。