手をつなご


 日の出まであと1時間。振り返れば、登ってきた道はぼんやりと霧に包まれて小さくなっていた。
「神聖な空気で身を清めたい」
そんな彼女の言葉に、遠足気分で行くものではないと頭では判っていたはずなのに…
(…これ、結構本格的な登山だったんじゃないの?)
なんて心でつぶやいた。神秘的な彼女とのデートは思いの外体育会系で、ストイックで…むしろこれデートなんだろうか。

 先に石段を登りきったレイが、「わぁ」と小さく声をあげた。追いつくと、そこは朝焼けに染まる空と一面に広がる雲海。澄んだ空気の作り出すコントラストがこの世の物とは思えない光景を見せていた。雲の切れ間から僅かに見える街はまだ暗く、いま世界で朝を迎えているのはここにいる2人だけなのかもしれないとさえ錯覚する。

 雲と空の境界線から光が差し込んできた。
「出てきたよ」
最高のポジションから見せてあげたくて、1番見晴らしの良さそうな岩に登ると上からレイに手を伸ばした。
「ありがとう」
登ってくるレイの顔は下からの朝日で金色に縁取られて、なんだか神々しい。
雲の下の街並みも徐々に白んで、切れ間から朝日が差し込んできた。
「朝だね」
「ふふ、何よ」
「来てよかった。」
「そうね、ありがとう。付き合ってくれて。」
ふと気がつけば、先程岩に登る際に引いた手は、そのまま指が絡められていた。朝日に暖められたのか、さっきまで冷えていた身体が指先からポカポカと温かく感じる。
「――貴方と一緒に見られて良かった。」
クスリと微笑む愛おしい彼女の横顔に、堪らず繋いだ手を引き寄せた。
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