♡SS〜東京

 ピッカピカのランドセル背負ってる一年生のうさぎちゃんと、ちょっと上級生のまもちゃん。Eternalの夢の中に出てくる小さいまもうさちゃんをイメージして書きました。

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 新緑の風を浴びながら、下校時刻のチャイムと共に子供たちがいっせいに校庭へあふれ出した。その群れはいくつかのグループになって、それぞれの行き先へと分かれていく。学童クラブに行くグループ、商店街の方に帰るグループ、団地の方に帰るグループ。それぞれが一年生から六年生まで「登校班」というグループになって一列になって帰るなか、丘の上の住宅街に帰る僕たちのグループもぞろぞろと列になって正門を出発した。
「ばいばい」「またね」
 住宅街に入ると、1人またひとりとグループの人数が減っていく。そうして最後に残ったのは、僕とお団子頭の1年生。そういえば4月から登校班が一緒になった子だ。特に会話を交わすことなく、しばらく2人で歩いていたけれど…こんなところまで一緒だったっけ?というより、僕の後をついてきてる!?うっすらと不安を覚えて、思いきって僕の方から声をかけた。

「ぼくんちココだけど、キミ、おうちどこ?」
「…わかんない。」

――え、もしかして帰り道が分からなくなっちゃったの!?

 もう一度お家どこ?と聞いてみたけれど、返った言葉はやっぱり「わかんない」だけ。嘘だろ?昨日までお母さんと一緒に列に並んで帰ってたけど、何度も通ってもう道は覚えたんじゃなかったの?びっくりというかちょっと呆れてそう聞いたけど、小さなお団子の1年生は首を振り、「だってだって、ママと一緒だから手を繋いでいたらお家に着いたもん」とプゥとほっぺを膨らませた。

「この曲がり角は?見覚えある?」
「よく分かんない。」
「そっちを曲がると行き止まりだけど、ここ曲がった事ある?」
「えっと。うーん、わかんない。」
「朝はどこを通ってきたの?」
「ごみ収集車のお兄さんが手を振ってくれたところでママともバイバイしたよ。」
「それじゃあ何の目印にもならないよ…」
そんなやりとりを続けながら、坂の上を行ったり来たりするうちに、僕たちはだんだんくたびれてきてしまった。

「ううっ…ぐすん。ママぁ」
 
 なんだよ、泣きたいのは僕の方だよ。そう思いながら仕方なく手を繋いでやると、きゅっと握り返してきた。僕より少し小さい手。女の子の手ってこんなにすべすべして柔らかかったっけ?なんだか可愛いな。なんて、ちょっと自分が大きくなったような気がして嬉しかった。

 と、そこに現れた1匹の黒猫。
「るな!」
お団子頭はパッと走り出し、猫を抱き抱えるとにっこり笑って僕の方に振り返って見せた。
「るなはね、うちの子なんだよ。」
「へえ、そうなんだ」
僕がそう言い終える前にネコはするりとお団子の手から抜け出してあっちの方へ。その先で優しそうなお母さんが遅かったわねと手を振っていた。
「あ!ここ!あたしんち!」
「よかったね。」
「うん!ばいばい!」

 泣いてたのが嘘みたいなとびきりの笑顔にホッとして、同時にポカポカと胸の中があったかくなる感じがした。

 あの子、明日は迷子にならずに帰れるかな?あんな頼りない状態なのに朝もひとりで集合場所に行けるんだろうか?
 繋いだ手の柔らかな感触を思い出しながら、なんだかこのまま放っておけないような、そわそわするような気持ち。なんでだろう?どうしたら良いのかな?
「――そうだ、明日は少し早くに家を出てお団子ちゃんの家の前を通って行ってあげよう!」
そんなとびきりの名案を思いついて、わくわくしながら家に帰った。


――翌朝、ぼくんちの前で待ってるおだんごがいた。
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