♡SS〜東京
ある日の昼下がり。
司令室で深刻な顔をする2匹と1人がいた。
「初めて見たわ。青点なんて、本当に存在するのね」
「青点」とは平均点の半分を意味する言葉。つまり平均点の1/4である。赤点でさえ危機感を覚えるのに、見た事もない数字に亜美は目を疑った。
「美奈子ちゃん…さすがにこれはマズいわ。」
アルテミスによって暴露された期末試験の成績。見せたなんて美奈子に知られたらとんでもない仕打ちを受けるかも…とは思ったものの、アルテミスは本気で危機感を感じてやむなく亜美に相談したのだ。
そのうえ美奈子に関しては成績に加えて出席日数も危うい。
ギャラクシアとの戦いでスターシードを抜かれ、僅かながら高校生活に空白ができてしまった5人。最後まで1人で戦っていたうさぎは許容範囲内だったものの、美奈子に関しては不運にも苦手な数学の成績以外にも日常的に遅刻ギリギリを攻めるような登校時間を繰り返し、ギリギリアウトの事もしばしば。体育の成績だけはトップクラスなのだが、まさか体育一本で内申点や他の教科の成績全てがチャラになるというわけにもいかないだろう。
「このままだと本当に留年ってあり得るのかもしれないわね。」
「だからお願いなんだ。亜美も忙しいところ悪いんだけど、美奈の勉強に付き合ってくれないか?」
そんなアルテミスの決死のお願いを、亜美は二つ返事で引き受けた。
――――――
その翌日、クラウンにて。
2人の少女が仲良くノートを広げていた。
「こっちが毎日のノルマ表よ。美奈子ちゃんが数学が苦手なのは基礎が甘いせいだと思うから、まずは中学数学から遡って徹底的に基礎を固める必要があると思うの。それから苦手な二次関数に着手しましょう。」
「なにこの鬼ノルマは!?どうしたのよ急に。」
ニコニコと優しい(?)笑みを浮かべなが、亜美はアルテミスから成績を見た事実は語らず、それとなく諭す。
「美奈、私達、もう高2なのよ?」
「みんなで一緒に進学できたって喜んでたときの初心を忘れない方がいいかなと思って。」
「初心、遡りすぎてない?これじゃまるで受験生じゃない!」
「そうかしら?でも毎日6時間やれば無理なく終わらせられる量だし。」
「6時間て、貴重な高校生活の気兼ねなく遊べる夏休みを毎日6時間もお勉強しなきゃいけないの?」
「気分転換に目先を変えられるよう英語のノルマも加えたメニューもあるけど。これだとだいたい1日8時間ってとこかしら。」
「いやいや、8時間て――」
「それでも24時間のうちのたった1/3よ?たっぷり8時間睡眠をとったとしても起きてる時間のほんの半分だけお勉強するだけで成績が上がるのよ?」
「可愛い顔してあくどいセールスみたいな言い方やめてくんない?」
そもそもなんでも私だけが呼び出されてこんなノルマを課せられるのか。さっきまで楽しくパフェをつついていたのに、今の美奈子は一転して最高に不機嫌だ。
「てゆーかなんであたしだけなの!?うさぎだって結構ヤバいんじゃないの?」
「それがね、うさぎちゃんは最近意外とまともな点数取るときがあるみたいなのよ」
「…そういえば衛さんが帰ってきてからずーっと一緒にいるものね。あの人、教えるの上手いし。」
もちろん、成績の情報源はルナだが2人の仲睦まじいことと言ったら美奈子でもよく分かる。それはもう、側から見ているコッチがうらやましくなっちゃうくらいに。
「チッ。なにそれ。大好きなまもちゃんに甘々ご指導してもらってるんでしょ!?いいなぁうさぎは。」
恨めしそうに歯噛みしながら膨れる美奈子に、亜美がニッコリと微笑みかけた。
「そう言うと思って、美奈にもメンターをお願いしておいたわ。」
「ふーん。…って、え?は?」
「そういう事なら、責任持って付き合わないとな。」
隣の席から現れたのはクンツァイトとゾイサイト。
(この人たち、いつから私達の会話聞いてたのよ。)
美奈子は相変わらず頬を膨らましたまま、彼らが座りやすいよう席を詰めた。
「この内容を1日最低6時間ペースでやるんだな?」
「はい。もし飽きてしまうようでしたら英語も加えていただいて、ざっと8時間になります。」
「――っちょっとちょっと!」
美奈子の静止などちっとも聞かず、パラパラと資料に目を通してクンツァイトは微笑みかけた。
「美奈の成績の事は薄々心配はしていたんだ。最近俺のところに遊びに来る頻度も高いし、俺といるせいで成績が落ちるとか留年なんて事になったら本末転倒だ。」
「…それはっ!…成績落ちたのは…アンタのせいじゃないわよ。」
「なら、キミがレベルアップするお手伝いをさせていただけるのは男として嬉しい限りだ。」
そう言いながらポンと美奈子の頭に手をやる。誰も傷つけず優しく促す、憎たらしいほどにどこまでもイケメンな男だ。
「…アンタ、これ全部ずーっと付き合ってくれるつもりなの?」
「もちろんだ、美奈。今夜は寝かせないぞ。」
冗談まじりに耳元で囁く声に、美奈子の頬は意図せずカッと赤くなる。
「使い方が違うのよバカ!」
重い腰を上げて席を立つ彼女の鞄を持ち、夕刻の雑踏に消えたカップルは、その年の夏休みの大半を苦楽を共にし、彼女は見事万年赤点の汚名を返上した。
おわり♡
司令室で深刻な顔をする2匹と1人がいた。
「初めて見たわ。青点なんて、本当に存在するのね」
「青点」とは平均点の半分を意味する言葉。つまり平均点の1/4である。赤点でさえ危機感を覚えるのに、見た事もない数字に亜美は目を疑った。
「美奈子ちゃん…さすがにこれはマズいわ。」
アルテミスによって暴露された期末試験の成績。見せたなんて美奈子に知られたらとんでもない仕打ちを受けるかも…とは思ったものの、アルテミスは本気で危機感を感じてやむなく亜美に相談したのだ。
そのうえ美奈子に関しては成績に加えて出席日数も危うい。
ギャラクシアとの戦いでスターシードを抜かれ、僅かながら高校生活に空白ができてしまった5人。最後まで1人で戦っていたうさぎは許容範囲内だったものの、美奈子に関しては不運にも苦手な数学の成績以外にも日常的に遅刻ギリギリを攻めるような登校時間を繰り返し、ギリギリアウトの事もしばしば。体育の成績だけはトップクラスなのだが、まさか体育一本で内申点や他の教科の成績全てがチャラになるというわけにもいかないだろう。
「このままだと本当に留年ってあり得るのかもしれないわね。」
「だからお願いなんだ。亜美も忙しいところ悪いんだけど、美奈の勉強に付き合ってくれないか?」
そんなアルテミスの決死のお願いを、亜美は二つ返事で引き受けた。
――――――
その翌日、クラウンにて。
2人の少女が仲良くノートを広げていた。
「こっちが毎日のノルマ表よ。美奈子ちゃんが数学が苦手なのは基礎が甘いせいだと思うから、まずは中学数学から遡って徹底的に基礎を固める必要があると思うの。それから苦手な二次関数に着手しましょう。」
「なにこの鬼ノルマは!?どうしたのよ急に。」
ニコニコと優しい(?)笑みを浮かべなが、亜美はアルテミスから成績を見た事実は語らず、それとなく諭す。
「美奈、私達、もう高2なのよ?」
「みんなで一緒に進学できたって喜んでたときの初心を忘れない方がいいかなと思って。」
「初心、遡りすぎてない?これじゃまるで受験生じゃない!」
「そうかしら?でも毎日6時間やれば無理なく終わらせられる量だし。」
「6時間て、貴重な高校生活の気兼ねなく遊べる夏休みを毎日6時間もお勉強しなきゃいけないの?」
「気分転換に目先を変えられるよう英語のノルマも加えたメニューもあるけど。これだとだいたい1日8時間ってとこかしら。」
「いやいや、8時間て――」
「それでも24時間のうちのたった1/3よ?たっぷり8時間睡眠をとったとしても起きてる時間のほんの半分だけお勉強するだけで成績が上がるのよ?」
「可愛い顔してあくどいセールスみたいな言い方やめてくんない?」
そもそもなんでも私だけが呼び出されてこんなノルマを課せられるのか。さっきまで楽しくパフェをつついていたのに、今の美奈子は一転して最高に不機嫌だ。
「てゆーかなんであたしだけなの!?うさぎだって結構ヤバいんじゃないの?」
「それがね、うさぎちゃんは最近意外とまともな点数取るときがあるみたいなのよ」
「…そういえば衛さんが帰ってきてからずーっと一緒にいるものね。あの人、教えるの上手いし。」
もちろん、成績の情報源はルナだが2人の仲睦まじいことと言ったら美奈子でもよく分かる。それはもう、側から見ているコッチがうらやましくなっちゃうくらいに。
「チッ。なにそれ。大好きなまもちゃんに甘々ご指導してもらってるんでしょ!?いいなぁうさぎは。」
恨めしそうに歯噛みしながら膨れる美奈子に、亜美がニッコリと微笑みかけた。
「そう言うと思って、美奈にもメンターをお願いしておいたわ。」
「ふーん。…って、え?は?」
「そういう事なら、責任持って付き合わないとな。」
隣の席から現れたのはクンツァイトとゾイサイト。
(この人たち、いつから私達の会話聞いてたのよ。)
美奈子は相変わらず頬を膨らましたまま、彼らが座りやすいよう席を詰めた。
「この内容を1日最低6時間ペースでやるんだな?」
「はい。もし飽きてしまうようでしたら英語も加えていただいて、ざっと8時間になります。」
「――っちょっとちょっと!」
美奈子の静止などちっとも聞かず、パラパラと資料に目を通してクンツァイトは微笑みかけた。
「美奈の成績の事は薄々心配はしていたんだ。最近俺のところに遊びに来る頻度も高いし、俺といるせいで成績が落ちるとか留年なんて事になったら本末転倒だ。」
「…それはっ!…成績落ちたのは…アンタのせいじゃないわよ。」
「なら、キミがレベルアップするお手伝いをさせていただけるのは男として嬉しい限りだ。」
そう言いながらポンと美奈子の頭に手をやる。誰も傷つけず優しく促す、憎たらしいほどにどこまでもイケメンな男だ。
「…アンタ、これ全部ずーっと付き合ってくれるつもりなの?」
「もちろんだ、美奈。今夜は寝かせないぞ。」
冗談まじりに耳元で囁く声に、美奈子の頬は意図せずカッと赤くなる。
「使い方が違うのよバカ!」
重い腰を上げて席を立つ彼女の鞄を持ち、夕刻の雑踏に消えたカップルは、その年の夏休みの大半を苦楽を共にし、彼女は見事万年赤点の汚名を返上した。
おわり♡