☆゚・*:.。.☆Happy Birthday .。.:*・゚☆.。.:・゚

 中間試験が終わった!窓を開けると教室はたちまち金木犀の香りで満たされた。気持ち良い秋晴れの空を見上げて思いっきり深呼吸すれば、ヤマが外れた絶望感を一発で打ち消すような開放感に心が躍る。爽快だわ!チャイムと同時にみんなに手を振って、あたしは校門を飛び出した。

 向かった先は、ちょっぴり久しぶりに入る高級マンション。オートロックのチャイムを鳴らしたけれど…なんでよ?留守?
「試験が終わったら遊びにおいで。それまでは緊急時以外連絡禁止。」
そんな彼からのちっともありがたくない優しさのおかげで、この一週間あたしがどんだけ我慢してたか、分かってる?
 ーーって、怒っていても仕方ないわよね。あたしには「殿下のホウトウ」があるんだもん!ジャンっ!合鍵!!

 いちおう「おじゃましまーす」と誰もいない部屋に挨拶をして、閉め切った部屋の窓を全部開けた。そよそよと秋風が吹き込むリビングテーブルには某有名店のマカロンの箱がひとつ。なんて綺麗なんだろう、いただきものかしら?ふかふかのソファーに腰を下ろしてオレンジ色のマカロンをひとつ頬張ると、華やかな香りとともに上品な味わいのクリームが口の中でとろけた。
「ああ〜!シアワセ!」
そのまま寝そべってテレビのリモコンをつけたら、最新のアイドルグループのPVが映し出された。スターライツだ。デビューと同時に大ブレイクして流星のように解散したあのグループの二番煎じだけど、案外悪くないじゃない。あーでも歌声は夜天君たちの方が圧倒的に良かったかな。ま、そりゃそっか。それにしてもこのマカロンほんとにおいしい!

 なーんて自分の部屋のように寛いでいたら、ガチャリと玄関の扉が開く音がした。やば。勝手におかし食べたの怒るかな?慌てて齧りかけのマカロンを口に放り込んで、ゴロンと寝たフリをした。

 フローリングの床にスリッパの擦れる音が近づいてきて、あたしの後ろでピタリと止まる。小さなため息。こっち見てるのかな?足音はそれからぐるりとソファーの前に回り込んで、ふわりと彼の香りが近づいてきた。寝っ転がってるあたしの前でしゃがみ込んだ気配がして…
(ひゃっ!!)
不意に顔にかかっていた髪を撫で上げられて、思わず肩をすくめそうになった。危なかったわ。何をされるのか見えてないぶん、触れられたところがすごくくすぐったい。それでも寝たフリはバレなかったと思う。彼の手はそのまま暫く私の髪を撫でて、それからそっと顔が近づいてくるのが感じられた。互いの息が触れ合うくらいに近づいて…たぶん、もう数ミリ先に彼の柔らかな唇が迫っている……くる………いつ?

 ーーけれど、今にも触れそうなほど近くに感じた温もりは、フッと小さく笑って離れていった。寸止め?なんで?

 髪を撫でる手が止まってつい目を開けてしまったら、びっくりするくらい目の前に彼の顔があった。
「うわっ⁉︎」
「ふふ、開けたらダメでしょ」
は?何て?
「狸寝入りだろ?分かる。」
『なんでよ!寝てると思ってたからあんな事やこーんなことしようとしてたんじゃないの?』
って、言い返したかったのに声が出ない。ピントが合わないくらい、ありえないほど目の前に端正な顔が笑っているんだもの。

「もう少し演技の練習が必要だな。寝たフリしてる瞼が動いてるし」
「ーーんっ…」
あれほど焦らされていたのに、急に深いキスで視界を塞がれてーー
「こうしようとすると、呼吸が止まるから。」
なすすべもなく組み敷かれると、なぜ力が抜けてしまうのか分からない。
「バレてるよ」
そう言ってクスリと笑う彼の低い声が、あたしの中でなにかを熱くした。
(…会いたかった)
言葉の代わりに2人の吐息が混ざる。ねぇ、もっとちゃんと顔見せてよ。両手を彼の頬に伸ばして、ずっと会いたくてたまらなかったその顔をつかまえる。
「うん…すき。」
なんだろ、それ以外に言葉が出ないわ。そのまま首を抱き寄せて、覆いかぶさる彼の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
「はぁ。好き。」
「ふふ、語彙力無いな」
「…うん。好き」
「それはどうも。」
言いながらするすると服の上から撫でる温かな掌に身を委ねて、うっとりと目を閉じた。
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