浜辺のカフェテラス

「…やるわねまこちゃん」
 うさぎたちの一件に一同が騒然としているなか、いつのまにか他所を見ていた美奈子が低く呟いた。見ればあちらにもう1組、お熱い人達がいたらしい。一体どこにそんなセンサーがあるのか、友人の決定的瞬間をもれなく目撃するとは、流石は愛の女神だ。
「あんまり見るなよ、はしたないぞ。」
「良いじゃない。仲間たちの動向を温かく見守るのも立派なリーダーの役目よ?」
「ただの物好きだろ」
 軽くあしらって再び手元の端末に視線を落としたが、クンツァイト自身も本心では彼らの恋路に全く無関心な訳ではない。再び巡り会えたその日から、湧き上がる気持ちに戸惑い惹かれあい、今度こそ壊れることの無いようにと揺れ動く彼らの気持ちは痛いほどによく分かるのだから。
 目の前でふん、と鼻を鳴らしてむくれる彼女の頭の上で、赤いリボンが潮風に揺れた。
「…美奈」
「何よーーっ…」
指を立てながら肩を叩くと案の定、振り向いた美奈子の頬にクンツァイトの人差し指が当たった。
ぷうと膨れる頬をつつかれたまま、「古典的すぎるイタズラしないでよ」と抗議する彼女に、やっと振り向いてくれた、と安堵する。
「あんまり見るなと言っただろ?」
指先に触れた頬の柔らかさに高鳴る鼓動を隠して再び視線を端末に戻そうとしたら、ヒョイとそれを取り上げられて、目線がぶつかった。
「じゃ、どこ見てたら良いのよ?」
「ーークス、焼きもち?」
「ちがっ…」
端末を取り返しながらそのまま両手を捕まえる。
「コッチ見てれば良いだろ?」
…波の音も周囲のさざめきも聞こえなくなって、ただ透き通るような美しい瞳に吸い込まれていく。
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