浜辺のカフェテラス
突然目の前で始まった王子たちの甘い抱擁に、文字通り目のやり場を失った。なんだあの光景は。いいかげん見慣れてはいるが、一応外だぞ。
隣に座っていたレイが呆れたと大きくため息をついて手元に畳んでいた日傘を開いた。あられもない姿の2人に、少しでも目隠しになればと貸してやるつもりなのだろう。
「ちょっと、行ってくるわ」
そう言って立ち上がった直後、デッキの隙間にヒールの足をとられてぐらりと彼女の体がよろめいた。
「危ない」
受け止めた腕から伝わる感触に、そういえば見た目以上に華奢なんだよな、などと場違いな感想を抱く。
「…ありがと…。」
俯きながら小さく呟くその顔は、照れ隠しなのか自慢の黒髪に隠れてよく見えない。
いつだってそうだ。誰もが認める高嶺の花。その整った顔立ちや神秘的な香りに隠された普通の女の子と変わらぬ一面を垣間見たとき、愛おしさで胸がいっぱいになって、全て手に入れたいという衝動に駆られる。
「なに?聞こえなかった。」
流れる髪をそっと手で梳いてやり、現れた横顔をのぞき込む。
「…何でも無いわ。」
日傘の色が映ったのだろうか、透き通るような頬がピンク色に染まっていた。