月夜のふたり

プウと頬を膨らませた美奈子の視線の先には、既にベッドで眠る彼の姿。
(「お帰り」くらい言ってくれても良かったのに。)
なんて思う美奈子も美奈子で友人との夕食があまりにも楽しく帰りが遅くなってしまったわけで、責められる立場ではないのだが。

起こさないようそっと近づけば、大きく開いた胸元に銀色の髪がサラリと滑る。月明かりに淡く照らされた彼の姿は憎らしいほどに綺麗だった。

「よいしょ…っ」
そーっと彼の腕を持ち上げて隣に伸ばさせると、自分もベッドに上がる。

「これでヨシ!」
せっかく彼を独り占めできる唯一の空間なのに、こんな風にすれ違いだなんて。奔放な愛の女神がしおらしく身を引くワケがない。
勝手に作らせた腕枕にほくほくと潜り込もうとしたその途端ーー
寝ていたはずの彼の腕がガシッと美奈子を捕らえた。

「ちょっ…!何!?起きてたの!?」
「いま起こされた。お帰り。」
「やっ…ちょっと待っ…苦しいってば…!」
「お前が自分からこうされに来たんだろ」

罠に捕らえられた獲物みたいに包み込まれて、気がつけば完全に彼の胸の中。
モゾモゾともがく美奈子の上で、クスッと不敵に笑う声が漏れた。
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