月夜のふたり
( あれ…?いつの間に…)
最後に見た景色と目の前の景色が若干違うことに、ちょっぴり驚いた。
ようやく帰ってきた彼が、ソファの上で眠ってしまっているまことを起こさぬようにベッドまで連れて行ってくれた事も、そっと毛布をかけてくれた事にも、全く気がつかなかったのだから。
身体を起こすと急に背中から温もりが離れていくのを感じて、彼の存在に気がついた。
(…居てくれたんだ。)
知らぬ間に隣に寄り添ってくれていた。そんな温かな優しさに頬が緩む。
意外とこう見えて気遣いが細やかというか、他人のことをよく見ている彼は、寂しさや人恋しさをこちらが自覚するより先に察してさりげなくそばに居てくれる。そんな彼の与える安らぎに心からありがたいなと感じて、そっと毛布をかけ直してあげた。
…それ以上の事を、まことは知らない。
気持ちよさそうに眠っている間、彼が桜色の唇にそっとキスしたことも、後ろから柔く包んで、ひとしきり彼女の香りを堪能してから眠りについたことも。