日々のこと KM

「…〜knt#@it…おかEr°…‼︎」
「おい、なんだその声は」
「ごめっ…ちょっと°喉ga…*$☆」

やられた。
明後日にオーディションを控えていたのに。
海外出張から帰ってきた彼を明るく出迎えたつもりがそんな声しか出なくて、我ながらこれはまずいと実感した。

「お前、そんな状況で何故こっちに来たんだ。さっさと帰って養生しないと…」
「…」

(だって、ほんの一週間ぶりとはいえ久しぶりに会えたんだよ?顔くらい見たいじゃない)
声に出しては言えない代わりにプゥと頬を膨らまして、ただ黙って俯いたけど。
…いつもならここでお小言タイムになるはずなのに、今日は特に何も言わないの?
表情ひとつ変えることなく、ただいつものように淡々とあたしの手を引き歩き出す彼に、なんとも言えない気まずさを感じた。

怒ってるのだろうか?勝手に迎えに来たから?風邪ひいてるのにノコノコ出てきたから?
…うつると困るって、迷惑に思ってるのかな…

身体が弱ってると心も弱くなる。いつだって塩対応なのは分かりきってる事なのに、今はなんだか、普段なら何とも思わない彼の態度がいちいち不安になっちゃうわ…。

駐車場に着くと、彼は後ろの席に乗せたばかりのスーツケースを開けて、何やら取り出してきた。

「ここまで悪化するとは思ってなかった。」
「へ?」
「ごめんな。体調悪いときに一人にして。」

隣に座りながらカサリ、と手渡されたお土産の包みの中には、あたしが欲しがっていた香水と一緒に見慣れないパッケージの飴が入っていた。

「向こうののど飴。それ結構効くぞ」

先週あんたを見送ったとき、去り際に少し物言いたげに私の頬を撫でていったのは、あの時すでに風邪をひきはじめていたのに気づいていたからなの…?

大人しく家まで送ってもらって、よーくうがいして。今回ばかりは彼の言うことを聞いてちゃんと休もう。

そう思いながら布団の中で舐めたその飴は、スパイスのものすごい強烈な味がした。
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