雨あめ降れ降れ

図書館の中にいると天気なんて気にならないから。
閉館の曲に重ねてザアザアと雨音が聞こえて初めて、外がこんなに雨だったのかと気がついた。でもそれよりも驚いたのは、そこに彼の姿があった事。

「どうして?」
「迎えに来たに決まってるじゃない。携帯見てよ。」
「…ごめんなさい。雨なのに、悪いわ。」

思いがけなく会えた嬉しさと、着信に気づかなかった申し訳なさをどう表すべきなのか。
いつだって努めて冷静に判断することができるはずなのに、どうしてこういうことに関してはうまく頭が回らないのだろう。
結果的に、"可愛げのない"言葉しか出てこなくて。

「可愛くないのね」

案の定そうボヤきながら、開きかけていた私の折り畳み傘を取り上げて自分の傘を広げた。

「大事な本が濡れたら困るでしょ。風も出てきてるし、こっちの方が大きいから。」

それはそうかもと、少し納得してみたけれど…
…どうして2人で一つの傘に入るのかしら?
そんな私の疑問など構わずさっさと歩き出す彼に、慌ててついて行くしか術がない。

「鞄、濡れたら困るんでしょ?傘持ってあげるから、しっかり両手で持ってなさいよ。」

…それは確かに、今日はたくさん資料が入っている。どこか腑に落ちないような気持ちを押し留め、大事な鞄を濡らさないようにしっかりと胸に抱いた。

雨脚は次第に強くなり、バラバラと大きな雨粒が傘を叩きはじめた。
「すごい雨ね」
濡れないようにと身を縮めたとたん、後ろから肩を抱きよせられて、触れ合う身体にドキっとした。

「…あの…やっぱりこれじゃ窮屈だし、別々に…」
「なんで?今さら私も濡れたくないんだからちゃんとこっち来てよ。」

ぎゅ。

ますます密着する体に、鼓動が速くなる。
どうしよう、これじゃあ彼の背中が濡れてしまう。もっと濡れない方法があったのでは?ーーでも、そんな事を考えられるほどの心の余裕はもはや無く。
どうしたのかしら。顔が火照って、まともな思考ができない。
亜麻色の髪がふわりと頬に触れ、彼の香りに包み込まれ…
だめだわ。もう何を聞いても、どんな言い訳をしても、今の私はきっと、彼の詭弁に勝てそうにないから。
考えるのをやめるとなんとなく肩の力が抜けて、そっと彼に身を委ねた。
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