雨あめ降れ降れ

一緒に帰れると思ってた子たちに次から次へと先を越され、気がつけば教室に残された生徒は私ひとり。ようやく解放された時には部活もとっくに終わってるような時間だった。
数学なんて大嫌い。
3度目の追試に落ちて補習だなんて、気分も落ち込んでしまう。
おまけに雨まで降り出した。傘持ってないのに。

(もう、最悪っ。)

ため息をつきながら校舎から駆け出すと、正門に見慣れた車が停まっていた。

「おかえりなさいませ」
「やだ、なんで?どうしたの?」
「姫の帰りが遅かったのでーー」

言いながら傘の中に私を入れて助手席のドアを開け、鞄を受け取るとシートの際まで私の事が濡れないようにしてくれる。
流れるような完璧なエスコートだ。

「ーー遅かったので、きっと追試か補習にでも捕まっているのではないかと」

「うっっさい!もう!」

いい気分で乗り込んだのに、ここまで気分を上げておいて一気に下げるとは。
悔しくて彼の方を見上げたときにはもう、クスリと笑ってドアを閉められていた。

文句の一つでも言いたかったのに、運転席の方を振り返った途端ふわふわのタオルが私の頭に乗せられて。
ポンポンと、優しく撫でるように濡れた髪を拭いてくれた。

普段の仏頂面とは全く違う、屈託のない笑顔。

2人きりの時にしか見せないその顔に、思わずドキッとする。

「…ズルいわ。」

それだけ言うとプイっとタオルを取り上げて、逆らうように窓の外へ意識を向けた。
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