雨あめ降れ降れ

「あーあ、嫌んなっちゃうな。」
油断していたと言えばそれまでなんだけど、急に降り出した雨はちっとも止む気配がない。暫くエントランスで時間を潰していたけれど、意を決して走って帰ろうとしたその時ーー遠くから見慣れた影がやってきた。

「へ?どうしたの?こんな所で」

思わず間の抜けた声が出てしまった。手にはあたしの傘。ご丁寧にレインカバーまで持ってきていて、ヒョイと鞄を取り上げると慣れた手つきでカバーをつけはじめた。意外とマメなやつだよな、なんて苦笑する。

「どうしたって、見れば分かるだろ。迎えにきた」

早くに親を亡くして、小さい頃からこういう時は濡れて帰るのが慣れっこだったから…
正直、思いがけないお迎えにびっくりした。

「よし、さっさと帰るぞ。悪いけどお前がいないと部屋ん中入れないんだ。」

「なんで?鍵持ってんだろ?ていうか、あたしの傘持ってきてくれてるって事はもう一度入ってるでしょ?」
「締め出された。迎えに行こうかと思ってちょっと玄関出たらドア閉まってさ。家の中にカギ置いてきちゃったんだよ。」

「俺としたことが」と悪戯っぽく笑う足元を見ると、サイズの合わないあたしのサンダルをつっかけていた。
「よくそれでここまで歩いて来られたね」
「ヒールのないサンダルでよかった」
「転ぶなよ」

踵がはみ出しているレディースのサンダルを2人で笑いながら、ゆっくりと手を繋いで歩いて帰った。
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