地下鉄南北線
幻の銀水晶。
どんな石なのかしら。いったい、今どこに…?
この一週間、ルナから聞いたその話を頼りにできる限りの情報を集めようと試みたけれど、ちっともそれらしき物は見つからなかった。
たいがいの図鑑は調べ尽くしたし、最近の学術誌にはひとつも載っていない。
近所の都立図書館で取り寄せをすれば大抵の文献は手に入るけれど、それももうみんな調べてしまった。
それにこれほど情報の少ない石のことだから、どこかで記述があったとしてももっと古い資料や、相当限られた文献にしか記されてないのかもしれないわ。
一介の中学生が足を運ぶのは少々敷居が高いけれど、それを凌ぐ好奇心と探究心に背中を押されて、亜美は初めて国立図書館へとやってきた。
読書のために通い慣れた図書館とは違う、近寄り難い重厚な空気。
そんな不安もカウンターに刻まれた「真理がわれらを自由にする」の銘文に打ち消されて、時間の許す限り情報を持ち帰ろうと心が踊る。
ーー
「いけない。もうこんな時間」
どれくらいここに居ただろう。だんだん館内の使い方も要領を得てきて、気がつけば閉館間際まで夢中になって資料を集めていた。
帆布の鞄を持ってきて正解だったわ。参考書でいっぱいの学校の指定鞄では、持ち帰る資料も入らないから。
地下鉄のホームに着くとちょうど発車ベルが鳴るところだったから、小走りに車内に乗り込んだ。
わずか3駅ほどではあるけれど、荷物も重いしどこか座れるところは無いかなと、動き出した車内を見渡して、ひとつだけ空いたその席に腰を降ろした。
貴重な資料を汚さぬよう、本当は家に帰ってから落ち着いて読むべきとは重々承知なのだけれど、好奇心の方が勝るのは未熟さ故なのだろうか。そんな自嘲を含みつつ、どうしても待ちきれず、そっと鞄から一冊取り出すと、細心の注意を払ってページを捲った。
鉱物の化学組成が連なる頁を指で追いながら、ふとある組成式で目が止まる。
Ca2AlAl2(Si2O7)(SiO4)O(OH)…灰簾石…ゾイサイト…
何かしら。なんだかその名に懐かしい響きを感じながら…ほんの数分だけ、眠ってしまってたのかもしれない。
知らぬ間に寄りかかっていた体温が何故か心地よかった。
隣の人が立ち上がってハッと我に返った。ごめんなさい!…と、思ったときにはもう遅く。その人の姿は雑踏の中に消えていった。