Restart
(そういえば今日も、みんなの様子がこれまでと少し違っていたわ…)
四人で空港へ向かいながら、亜美はふとそんな事を思い出していた。
なんだか最近、亜美やルナたちの分析より早く美奈子たちが答えにたどり着いているような気がするのだ。
衛が渡米してから、麻布十番はほんの少しだけ敵の出現頻度が低くなった。
「敵」といっても大きなものではなく、例えば受験勉強をしていた頃にまことやレイに取り憑いた地霊やメルクリウス(と、亜美が思っていた物)のような、彼女等にとっては日常のひとコマのような小さな敵で、大抵はうさぎを除く4人のうち誰かが見つけて倒して終わる。
しかし念のためルナたちと地球全体をスキャニングしてみたところ、こうした小さな敵の出現頻度が麻布十番では今までの半分近くに減り、代わりに北米地域でぽつぽつと出現しているようだった。
――そう、北米とはつまり、彼の留学先で。
調べてみれば理由は単純で、衛が生活の拠点を変えたことで彼のパワーが地軸のブレのようなものを引き起こし、こうした敵の出現ポイントが変わっていたのだ。
それはある意味当然のことで、彼によってもたらされる様々な力――うさぎに言わせれば「カッコいいところ!」とか「性格!」とか「すっごいところ!」とかの、いわゆる彼の人を惹きつける魅力のようなものは、本人の意思であろうとなかろうと引力のようにあらゆるモノをも惹きつけている。
その力はうさぎにも言えたことで、そんなプリンスとプリンセスの2人が同じ街にめぐり合い、互いに導かれるように力を目覚めさせたのだから、今まで良くも悪くも様々なモノを引き寄せていたのだろう。
だからこそ彼女が衛と出会う頃に亜美たちも戦士として目覚めたのかもしれない…と、振り返れば思ったりもする。
そんなうさぎから、「もうすぐまもちゃんが帰国するんだよ」と聞いたのは今月になってすぐの事。
ちょうどレイが「何かこれまで燻っていたものが実体化しそうな予感がする」と言っていた頃だった。
彼女の予感に従って、亜美も何かしら注意をしておいた方が良いだろうと比較的早い段階でデータを集めに動き出したつもりではいたのだが…まさか帰国が早まるだなんて。
そして今朝、以前から気になっていた大気圏内を浮遊しているエネルギー体が空港に降下しつつある事が気にかかり、念のためと美奈子たちに共有したら、早朝にも関わらず慌てたような美奈子から折り返しの着信があったのだ。
「大変!うさぎが今日空港に行くかもしれないの!」と。
――何故、美奈子はその事を知っていたのだろう?
ルナによると衛がうさぎに帰国すると伝えたのは昨日の夜らしい。それからまだ学校で会ってもいなかったのに、どうして美奈子はうさぎに聞くまでもなく彼の帰国を知っていたのか…?
さらに不思議なのは、うさぎが放課後先に空港へ向かってしまったと分かると、すぐにまことが到着予定の便名と「第二ターミナルだよ」と行き先の詳細を言い当てたのだ。
――音を聞くのもダメなくらい飛行機が苦手なはずのまことが、どうしてそこまで詳しく知っていたのだろう…?
――――――
空港の第二ターミナルは、夕方の到着ラッシュと重なりとても混雑していた。
時折聞こえる飛行機の離着陸の音がゴーッと近くて、亜美は思わず「まこちゃん、大丈夫?」と親友の顔を見上げた。
でも、それ以上に険しい顔をしていたのはレイの方だった。
「――おかしいわ。何か居るはずなのに、気配が…ココじゃない気がする。」
衛の乗ってきた飛行機はもう到着しているのに、到着ロビーにうさぎたちの姿は無く、レイの察していた「何か」がここに降りた様子もない。
不審に思った亜美が端末を取り出し今朝見つけた怪しいエネルギーの降下地点を再計算してみると、エネルギー体は今朝よりほんの少し地点がずれて、今まさに消失しようとしているところだった。
「――これって…ねぇ、うさぎちゃんたち、もしかしてココじゃなくて第一ターミナルにいるんじゃないかしら?それにレイちゃんの言うとおり、怪しいエネルギーは、もう消えようとしてるところみたい。」
亜美の端末を覗きこみながら、すぐさまレイが携帯からうさぎに電話をかけた。「どうせ通信機なんかより衛さんと連絡のとれる携帯の方が繋がるんでしょ」なんて毒突きながら。
そうして案の定、2〜3コールで出たうさぎの声に安堵し、ようやく「バカ」と苦笑しながら電話を切った。
「あの子、ターミナル間違えたらしいわよ。」
「あはは、じゃあ第一にいるの?」
「衛さんも?」
「ええそうみたい。敵も無事倒したって。」
「じゃ、そっち行くか。――って言ってももう、あたしたち必要なかったみたいだけどね。」
――――
第一ターミナルは敵の襲来があったなんて信じられないくらい、何事もなく賑わっていた。
うさぎと衛の姿は4人が探すまでもなく目立つ…というか、とてつもなく幸せなエネルギーに包まれていて、すぐに合流することができた。
帰国した衛と挨拶を交わしつつ、うさぎから敵が現れたけど倒したという話を聞いて、四人はほっと胸を撫で下ろす。
「変身したのも久しぶりだったから、ちょっと慌てちゃった。」
「もう、心配したんだから。」
「通信機くらい応答しなさいよ。」
そんなふうに笑い合いながらふと、美奈子は周りを見渡してうさぎに尋ねた。
「うさぎ、彼らに会ったの?」
「うん。会ったけど、すぐまたどこか行っちゃった。」
(「彼ら」って――?)
亜美のなかで、ドキンと何かが胸を打った。
前世の記憶が、微かに脳裏をかすめる。
「みんなに合わなくていいの?って聞いたんだけど、『また今度な』って帰っちゃったの。」
ごめんね、引き止められなくて。と付け加えるうさぎの肩に衛が手を添えて、「今度、時間を作るよ」と四人に微笑んだ。
(――「また今度」…?誰が…?)
亜美の中で、もう答えは出ているのにまだ回答を見たくないような感覚が込み上げる。
「帰ろっ!ホラ、もうこんなに暗くなっちゃったし。あ、一番星みーつけた!」
笑いながら駆け出す美奈子の笑顔を追いながら、亜美はそういえば彼女が少し前から大人びて綺麗になっていた事に気がついた。
「美奈、そっちは北よ。宵の明星は西。」
「自分の母星くらいちゃんと見つけなさいよ」
「えっ!?一番星って金星のことだったの!?」
「嘘でしょ!?知らなかったの!?」
帰りながら見上げた東京の夜空は、明るいけれど目をこらせば結構星も見える。
星座表に描かれたこぐまやオリオンの姿を初めて夜空に見つけられた時のように、亜美の中で何か点と点が繋がれていくような気がしていた。
四人で空港へ向かいながら、亜美はふとそんな事を思い出していた。
なんだか最近、亜美やルナたちの分析より早く美奈子たちが答えにたどり着いているような気がするのだ。
衛が渡米してから、麻布十番はほんの少しだけ敵の出現頻度が低くなった。
「敵」といっても大きなものではなく、例えば受験勉強をしていた頃にまことやレイに取り憑いた地霊やメルクリウス(と、亜美が思っていた物)のような、彼女等にとっては日常のひとコマのような小さな敵で、大抵はうさぎを除く4人のうち誰かが見つけて倒して終わる。
しかし念のためルナたちと地球全体をスキャニングしてみたところ、こうした小さな敵の出現頻度が麻布十番では今までの半分近くに減り、代わりに北米地域でぽつぽつと出現しているようだった。
――そう、北米とはつまり、彼の留学先で。
調べてみれば理由は単純で、衛が生活の拠点を変えたことで彼のパワーが地軸のブレのようなものを引き起こし、こうした敵の出現ポイントが変わっていたのだ。
それはある意味当然のことで、彼によってもたらされる様々な力――うさぎに言わせれば「カッコいいところ!」とか「性格!」とか「すっごいところ!」とかの、いわゆる彼の人を惹きつける魅力のようなものは、本人の意思であろうとなかろうと引力のようにあらゆるモノをも惹きつけている。
その力はうさぎにも言えたことで、そんなプリンスとプリンセスの2人が同じ街にめぐり合い、互いに導かれるように力を目覚めさせたのだから、今まで良くも悪くも様々なモノを引き寄せていたのだろう。
だからこそ彼女が衛と出会う頃に亜美たちも戦士として目覚めたのかもしれない…と、振り返れば思ったりもする。
そんなうさぎから、「もうすぐまもちゃんが帰国するんだよ」と聞いたのは今月になってすぐの事。
ちょうどレイが「何かこれまで燻っていたものが実体化しそうな予感がする」と言っていた頃だった。
彼女の予感に従って、亜美も何かしら注意をしておいた方が良いだろうと比較的早い段階でデータを集めに動き出したつもりではいたのだが…まさか帰国が早まるだなんて。
そして今朝、以前から気になっていた大気圏内を浮遊しているエネルギー体が空港に降下しつつある事が気にかかり、念のためと美奈子たちに共有したら、早朝にも関わらず慌てたような美奈子から折り返しの着信があったのだ。
「大変!うさぎが今日空港に行くかもしれないの!」と。
――何故、美奈子はその事を知っていたのだろう?
ルナによると衛がうさぎに帰国すると伝えたのは昨日の夜らしい。それからまだ学校で会ってもいなかったのに、どうして美奈子はうさぎに聞くまでもなく彼の帰国を知っていたのか…?
さらに不思議なのは、うさぎが放課後先に空港へ向かってしまったと分かると、すぐにまことが到着予定の便名と「第二ターミナルだよ」と行き先の詳細を言い当てたのだ。
――音を聞くのもダメなくらい飛行機が苦手なはずのまことが、どうしてそこまで詳しく知っていたのだろう…?
――――――
空港の第二ターミナルは、夕方の到着ラッシュと重なりとても混雑していた。
時折聞こえる飛行機の離着陸の音がゴーッと近くて、亜美は思わず「まこちゃん、大丈夫?」と親友の顔を見上げた。
でも、それ以上に険しい顔をしていたのはレイの方だった。
「――おかしいわ。何か居るはずなのに、気配が…ココじゃない気がする。」
衛の乗ってきた飛行機はもう到着しているのに、到着ロビーにうさぎたちの姿は無く、レイの察していた「何か」がここに降りた様子もない。
不審に思った亜美が端末を取り出し今朝見つけた怪しいエネルギーの降下地点を再計算してみると、エネルギー体は今朝よりほんの少し地点がずれて、今まさに消失しようとしているところだった。
「――これって…ねぇ、うさぎちゃんたち、もしかしてココじゃなくて第一ターミナルにいるんじゃないかしら?それにレイちゃんの言うとおり、怪しいエネルギーは、もう消えようとしてるところみたい。」
亜美の端末を覗きこみながら、すぐさまレイが携帯からうさぎに電話をかけた。「どうせ通信機なんかより衛さんと連絡のとれる携帯の方が繋がるんでしょ」なんて毒突きながら。
そうして案の定、2〜3コールで出たうさぎの声に安堵し、ようやく「バカ」と苦笑しながら電話を切った。
「あの子、ターミナル間違えたらしいわよ。」
「あはは、じゃあ第一にいるの?」
「衛さんも?」
「ええそうみたい。敵も無事倒したって。」
「じゃ、そっち行くか。――って言ってももう、あたしたち必要なかったみたいだけどね。」
――――
第一ターミナルは敵の襲来があったなんて信じられないくらい、何事もなく賑わっていた。
うさぎと衛の姿は4人が探すまでもなく目立つ…というか、とてつもなく幸せなエネルギーに包まれていて、すぐに合流することができた。
帰国した衛と挨拶を交わしつつ、うさぎから敵が現れたけど倒したという話を聞いて、四人はほっと胸を撫で下ろす。
「変身したのも久しぶりだったから、ちょっと慌てちゃった。」
「もう、心配したんだから。」
「通信機くらい応答しなさいよ。」
そんなふうに笑い合いながらふと、美奈子は周りを見渡してうさぎに尋ねた。
「うさぎ、彼らに会ったの?」
「うん。会ったけど、すぐまたどこか行っちゃった。」
(「彼ら」って――?)
亜美のなかで、ドキンと何かが胸を打った。
前世の記憶が、微かに脳裏をかすめる。
「みんなに合わなくていいの?って聞いたんだけど、『また今度な』って帰っちゃったの。」
ごめんね、引き止められなくて。と付け加えるうさぎの肩に衛が手を添えて、「今度、時間を作るよ」と四人に微笑んだ。
(――「また今度」…?誰が…?)
亜美の中で、もう答えは出ているのにまだ回答を見たくないような感覚が込み上げる。
「帰ろっ!ホラ、もうこんなに暗くなっちゃったし。あ、一番星みーつけた!」
笑いながら駆け出す美奈子の笑顔を追いながら、亜美はそういえば彼女が少し前から大人びて綺麗になっていた事に気がついた。
「美奈、そっちは北よ。宵の明星は西。」
「自分の母星くらいちゃんと見つけなさいよ」
「えっ!?一番星って金星のことだったの!?」
「嘘でしょ!?知らなかったの!?」
帰りながら見上げた東京の夜空は、明るいけれど目をこらせば結構星も見える。
星座表に描かれたこぐまやオリオンの姿を初めて夜空に見つけられた時のように、亜美の中で何か点と点が繋がれていくような気がしていた。