"可愛い"になんてなれないと思ってた
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昔から、家で遊ぶより外で遊ぶことが大好きだった。
お人形遊びよりも、鬼ごっこ。
おままごとよりも、かくれんぼ。
お菓子作りよりも、泥団子づくり。
そんな遊びをばかりだから周りは男の子だけで、女子の友達はいなかった。
でも一丁前に可愛いものが好きだった。
外で遊ぶ時はそういう服は着たら汚れちゃうし、動きにくいから着れなかったし
日中外にいて、こんがり焼けた肌には全然合わなかった。
それに1度スカートを履いて遊びに出かけた時がある。
でもその時一緒にいた男の子から
「あははは!ハヅキ、スカート全然似合ってなーい!女装だー!!!」
ケラケラと笑われて顔から火が出るくらい赤くなって、直ぐに着替えに戻った。
確かにその頃からずっとベリーショートだったし、動く時に邪魔だと思ってたから伸ばしたこともなかった。
結果それが大きくなってからも、私にとっては呪いの言葉になってしまい
以来ふんわりとして可愛い服を着ることも買うことも無くなった。
あれから年月は経って、私も成長した。
小さい頃と比べたら大分落ち着いて、一日中外にいることも無くなったがそれでも肌は他の子よりは黒い。
身長は伸びて、女子の平均よりは大きく
でも、膨らんで欲しいところはあんまり大きくならなくて。
結果的に余計男の子みたいな感じになってしまった。
アカデミーに入学してからは制服も男女統一しているし、パッと見じゃ私が女の子と認識するのは難しいだろう。
そんな私を他の生徒が放っておく訳もなく、いつからか私はからかいや、悪口の対象になっていた。
「あの子、あれで女の子なんだって」
「男の俺よりでかくて、なんかムカつく」
「髪も短いし、男になりたいのかな?」
「うわ、こっちみてる怖ァ〜」
ひそひそと聞こえてくる心無い言葉が私に刺さり、あの時の男の子を思い出して段々と教室に行くのが辛くなってしまった。
別に男の子になりたいわけじゃない。
髪だって伸ばしたい、服も可愛いものを着たい。
可愛くなりたい。
心の中で反論するが、喉がきゅっとしまって声にはならない。
次第に私は授業に出られなくなり、不登校になった。
しばらくの間は寮の部屋に引きこもっていたが、元々アウトドア派なところもあって気分転換にピクニックでも行こうと思い立ち
授業中の誰もいないのを見計らって、アカデミーの外へと出かけた。
課外授業の時期では無いため、外には生徒の姿は一人もいない。でも、誰かに出会う可能性がないとは限らない。
だから私はテーブルシティから少し離れた場所を目指してひたすら歩いて行った。
そうして歩いていたら突然「危ない!!」という声と共に、誰かに手を引かれる。
え?と思うまもなく、私がいた場所に大きな岩がドォン!という音を立てて落ちてきた。
(………え?)
「君、大丈夫?」
「…はっ!あ、え、えっと、た、助けて下さってありがとうございました…」
現状を受け止めることに必死になっていたが、助けてくれた人のことを忘れていた。
慌ててそちらに向きなおり感謝をする。
「あー、いや当たり前の事しただけだし…そこまで気にしなくてもいいっしょ。」
「そ、そんなことないです!私あなたが居なかったら大怪我か最悪の場合…」
そこで止まって、最後まで言えなかった。
そうだ、この人が助けてくれてなかったら私は今頃岩の下敷きになっていた。それを認識した途端、一気に恐怖に襲われてガタガタと震えてきて私は腰が抜けてしまった。
「あ……わ、わた、私…」
「ちょっ!だ、大丈夫……じゃないね?」
「ご、ごめんなさい…今になって怖くなってきちゃって…」
「まぁ、誰だってビビるっしょ…。とりあえずこのままだとまた、落石してくる可能性もあるから移動したいんだけど…立てない?」
「そ、そうです…ね、足に力が入らなくって」
「んー、だよねぇ……よし!君ちょっと失礼するね」
「え?ひゃあ!?」
一言断りを入れてから、その人は近づくと私の膝裏と背中に手を回して抱き上げる。
所謂、お姫様抱っこと言うやつだ。こんなことされた事もなかったし、男の人と関わるのなんて幼少期の頃以来だったからびっくりしたし、ドキドキしてしまった。
「ボクにしっかり掴まってて。」
「あ、で、でも、私重いと思うので…」
「あはは、そんなの気にしなくても君とっても軽いよ?」
寧ろちゃんとご飯食べてる?と逆に心配されてしまう始末。
茶化しているんじゃなくて、本気でそう思って言っているのが分かるから反応に困ってしまう。
それに気づいたのか、ハッとした顔になり
「あ、ごめん!女の子にこういう話って良くなかったね、失礼なこと言っちゃったかも。」
「い、いえ、初めて言われたのでびっくりしちゃって」
「そう?本当に思ったけどなぁ」
落石が来ない場所まで運んでもらい、お礼にピクニックに誘ってみたら「ここで断っちゃったら、君に失礼っしょ?」と快諾してくれたので、作ってきたサンドウィッチを振舞うことに。
「あ、そういえば名前教えてなかったよね。ボクはピーニャっていうんだ、よろしく」
「私はハヅキって言います……ん、ピーニャ?」
(それって、アカデミーの生徒会長の名前と一緒じゃない?でもなんか前に見た時とだいぶ印象が……)
「あれ?ボクの名前知ってるってことはもしかしてアカデミー生?」
「あ、じゃあ生徒会長のピーニャくん本人だったんだ」
「まぁ………今は"元"だけどね」
「…?」
「知ってると思うけどボクね、考えた校則が厳しすぎてウザイ言われちゃって、
周りの生徒達から反感買っていじめられたんだよね。それで今は、アカデミーには行けてないんだ。」
「?!」
「あれ?これ結構有名な話だと思ってたんだけど…」
入学して直ぐに不登校になったから、あまり学校での出来事を知ることもなかったため、ピーニャくんの話も初めて知ったのだ。
現在はスター団というチームを作っていじめっ子達に立ち向かおうとしているらしい。
「あ、あの、実は…」
と自分のアカデミーでの事を話してみることにした。出会ってすぐのピーニャくんに話しても困るんじゃないかと思いながらも、不登校になったという共通点にシンパシーを感じてしまったのだ。
そんな私の話をピーニャくんは、たまに相槌を打ちながら真剣に聞いてくれた。
「そっか、理由は違えどハヅキちゃんも不登校なんだ」
「ご、ごめんね、いきなり話して…」
「ううん、むしろ言わせてごめんって感じ…でも、ちょっとボク納得いかないんだけどさ」
少し眉間に皺を寄せて、ピーニャくんはムッとした顔になる。何か気分を害してしまったのかなと不安になるが、
「ハヅキちゃんってさ、そんなに言うほど男の子っぽいのかな?」
「え?」
「確かに女子の平均身長よりは高いかもだけど、ボクよりかは小さいし、線は細いから体型はそこまで男子っぽくは無いし…声も言うほど低くないじゃん?だからボクには女の子にしか見えないというか………ってごめん、また失礼なこと言ったかも」
きょとんとして、ピーニャくんを見つめる。私の全体を見ていつも男だなんだって言われ続けてきたからすぐに受け入れられなくて、「そんな事ないよ」って否定した。
「髪だってこんなに短いし」
「逆に長い男子だっているっしょ?」
「肌も浅黒いし…」
「健康的でいいじゃん」
「…………可愛い服なんて着たら女装してるみたいになるんだよ?」
「……あのさ」
と一言少し間を開けて、
「誰かに色んな酷いこと言われたんだろうけどさ、そんなに自分の事を否定しちゃダメだよ」
「え?」
「人から受けた傷ってなかなか癒えないのは、ボクも痛いほど分かるし……けど、ハヅキちゃんは何も悪くないんだからもう自分で自分を傷つけるのは止めたほうがいいよ。」
「……ピーニャくん…」
労りの言葉なんて今まで言われたことなんてなかった。
悪口、陰口そんなのばっかりで、助けてくれる人もいなくてみんな見て見ぬふりするだけ。
次第に私自身もみんなと違うから、そう言われても仕方ないと思うようになって被虐的になことばかり思うようになっていた。
そこにピーニャくんからの言葉を聞いて、自然と涙がぼろぼろと零れてきた。
泣き出した私にギョッとして、「え!ご、ごめん!きつい言い方だったかな?」と慌てながらハンカチを取りだし私に手渡してくれた。
「ち、違うの……嬉しかったの…」
「嬉しい?」
「うん…ありがとうピーニャくん」
ハンカチを受け取って涙を拭き、笑ってみせると固まったように私の顔をじっーと見つめてきた。どうかした?と首を傾げて聞くと、
「ハヅキちゃん、そうやって笑ってる方がいいよ。可愛いじゃん」
と言って、にかっと笑う。
「え?!か、可愛い?」
「うん、泣き顔よりそっちの方が断然いいね!」
「か、からかわないで…恥ずかしいから」
顔が赤くなっているのが分かるくらい熱くなっていた。昔のことを思い出して少しだけ胸が苦しくなるが、ピーニャくんはからかってないよ!と否定した
「ボクお世辞とか言えないタイプだし、本当に可愛いと思ってるから言ったんだよ」
「う…」
その後も持ってきたサンドウィッチを食べたピーニャくんが「すっごく美味しいね、料理上手なんだ」とか「良い奥さんになれるんじゃない?」とか沢山褒めてくれるからそれに一つ一つ真っ赤に反応してしまって、なかなか顔の火照りが消えず大変だった。
あれから1年とちょっとが過ぎ、その間もピーニャくんとは時間が合い次第ピクニックや、スター団のアジトで会い交流していた。
私は団員ではなかったが、スター団の皆は部外者の私にも優しく接してくれて、初めて女の子の友達もできた。
アカデミー以外の居場所を作ってくれたピーニャくんには本当に感謝しかない……。
そして、私は出会った頃からピーニャくんに片思いをしている。
初めて女の子扱いされてドキドキしたり、助けてもらった時の吊り橋効果なのかもしれないと最初は、この気持ちに蓋をしようと思った。でも会う度に、話していく度にどんどん好きだという感情が膨らんでいって認めるしかなかった。
いじめっ子の居なくなったアカデミーは前に比べてもとても通いやすい場所になっていて、不登校だった私も少しずつ授業に出られるようになり
ピーニャくんも校長先生の粋な計らいで、スター団をSTCとして奉仕活動することになりお互いに充実した学生生活を送っていた。
新しい環境になって自分に少し自信が持てるようになった。
今までの自分から変われたのはピーニャくんのおかげ…だから、お礼と私の気持ちを伝えようと思いお友達に相談に乗って貰うことにした。
「そ、それで告白ってどうしたらいいのかな…?」
「わぁ、とうとう伝えるんだね!」
「う、うん…怖いけど頑張ってみるね」
「でも、1年も2人でよく会ったりしてたんでしょ?大丈夫だよ、脈ありだって〜!」
「そうかなぁ…そ、それでね…あの恥ずかしいんだけど…メイクとかお洒落とかした事ないから教えて欲しいなって……」
「きゃ〜!ハヅキちゃん照れちゃって可愛い〜〜♡」
「うー…」
まだ人から可愛いって言われ慣れてないから、毎回顔が赤くなってしまう…。
そんな私の表情を見て向かいの席に座っていたお友達は、私の席まで移動して抱きつき頭を撫でてきた。
ベリーショートだった髪もあれから伸ばしてみて、気づいたらボブくらいの長さになった。この髪型のおかげか私のことを男の子だと思う人はもう誰も居なくなり、特にからかったり陰口を言われることもないしこちらとしてはほっとした。
「よぉし、早速今日放課後にお買い物に行こう!!普段着で着るやつとかデートの時に着れるのとかお洋服買って、メイクも基本から教えてあげるから、たぁくさん勉強しようね♡」
「よ、よろしくお願いします!」
そしてそこからお友達は、沢山私の体型に合わせた可愛い洋服を選んでくれたり、ナチュラルなメイクだったりヘアアレンジを教えてくれた。
自分でコーディネートして、メイク出来るようになってから私はピーニャくんに「放課後少しだけ時間をください」とメッセージを送ってテーブルシティの噴水前を指定して集合することに。
【Pside】
放課後、ハヅキちゃんから久しぶりに呼び出されて会うことになった。
最近は自分の奉仕活動に遠慮してか、こちらから誘ってもいい返事を貰えなくてもどかしいと感じていたので、向こうから誘ってくれて嬉しかった。
でも珍しくテーブルシティを集合場所に指定して来たのには少し疑問符を浮かべつつも、早く放課後にならないかなとソワソワしながら授業を受けていった。
約束の時間、スター団の団員達に少し遅れることを伝えてからボクは噴水前まで急ぐ。
走って辿り着いたが、なかなか目的の人物を見つけられない。
キョロキョロと探していると、「ピーニャくん」と後ろから探し人であるハヅキちゃんの声がかかった。
「ごめん!遅れちゃっ…て………」
バッと振り返って見ると、丸襟の白いフリルシャツにリボンタイとAラインの膝丈スカートに身を包んだハヅキちゃんが居た。
顔も化粧をしているのかいつもより華やかだし、初めて会った時より伸びた髪もハーフアップにしていてとってもお洒落だ。
彼女の初めてみる姿に、驚いて固まっていると不安げにハヅキちゃんが声をかけてくる。
「へ、変かな…?」
「あ!い、いや、違うんだ!そ、その…いつもと違うからびっくりしちゃって…。
え、えっとその、凄く似合ってるよ。」
「本当に?よかったぁ…」
ボクの言葉にほっとしたように表情を綻ばせる。こんなに変わった彼女のことをもう誰も笑ったりはしないだろう。
「そ、それでどうしたの?そんなにおめかしして…」
「……あの、ね、私ずっと今まで男の子に言われたことが忘れられなくて、可愛い服を着ても女装みたいな感じにしかならないって……可愛い女の子になれないって諦めてた。
去年までそう思ってた……ピーニャくんに会うまで」
「………」
ハヅキちゃんが緊張しているのが胸の前で組んだ手の震えでわかる。
だから、余計な相槌は打たずにそのまま続きの言葉を待った。
「今まで言われてきたことを否定してくれて、私の事女の子として扱ってくれて…本当に嬉しかった…。
あれから、ちょっとずつだけど私変われたような気がして
髪の毛も伸ばしたりスキンケアしたり、ファッションも勉強したの………可愛いって言われたくて。
私に変わる勇気をくれて……
初恋を教えてくれてありがとうって、伝えたかった。
ピーニャくん…大好きだよ。」
心臓が尋常じゃないくらい脈打ってるのを感じる。ハヅキちゃんは夕陽に照らされて、赤い顔がさらに赤くなっているように見えた。
でもそれと同じくらいボクも顔が真っ赤になっているのが分かる。
ストレートな告白をされたのなんて初めての事だったし、その相手がハヅキちゃんからというのもあって余計に効いた。
少しの間の後、ボクはハヅキちゃんに答えた。
「ここまで女の子に言わせて、返事はまた後日に!…なんてそんな野暮なことボクには無理だからさ、今返事させてもらっていいかな。」
「…うん」
ぎゅっと目を閉じて、強ばるハヅキちゃんを見てクスっと笑って白くなるまで握っている両手を上から優しく包み込む。
ビクッとして、瞼を開いてボクを見つめる彼女に
「ボクも…前から…ううん、出会ったあの時から、可愛い子だって思ってたよ。
笑うとえくぼができるところとか、料理上手なところとか、あと少し泣き虫なところとか全部素敵だなって……
一目惚れだったんだろうね…ずっとハヅキちゃんが好きだよ。ボクとよかったら……付き合ってください。」
「はい、こちらこそ…!」
目に涙を浮かべながら、微笑む彼女はボクが知る誰よりも素敵な女性だった。
周りに人がいるのも忘れて、ボクたちは抱き合って幸せを噛み締めた。
可愛いなんてなれないって思ってた。
でもあの時、助けてくれて
恋をして私は変われることが出来た。
それを教えてくれた貴方をこれからもずっと
愛していきたい。
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