それからというもの、

｢ハヅキ先生、おはようございまあす｣

｢おはようございます。｣

｢えっと、｢すいません、急いでるのでこれで｣あっ…｣


｢今日はミモザ先生からカモミールティーを頂いたんですよお〜。よかったらお昼に飲みませんかあ？｣

｢…お昼は校長先生に呼ばれてるので申し訳無いんですが｣

｢そうですかあ…｣


｢はい、では授業はここまでです。明日は小テストをするので、しっかり復習しておくように｣

『はあい！』

｢ジニア先生、メッセージ送ってこないね｣

｢流石にあれだけ注意されてたらしないんじゃない？｣

｢それにさ、最近ハヅキ先生ともぎこちないよね｣

｢喧嘩したのかな？｣

2人の空気が良くない事は周りの生徒たちにも知れ渡っていて、やれ喧嘩しただの、フラれただのと噂が飛び交っていた。そんな中、アオイがハヅキに声をかける。

｢先生ー！｣

｢アオイさん、何か授業で分からないところとかあったかな？｣

｢あ、全然違います！｣

｢（違うんだ…）じゃあ何か相談したいこととか？｣

｢最近ジニア先生と何かあったのかなって？｣

いつか誰かに突っ込まれるかなとは予想していたが、こうもストレートに聞かれるとは思っていなかったハヅキは、少しだけ持っていたファイルに力が入った。なんて答えるのが最適解か考えていると、アオイは続けて話していく。

｢この前、図鑑を見てもらいに先生の所に行ったら元気なくって…いつもなら図鑑に食いついて楽しそうなのに｣

｢そう…｣

｢それで何かあったのか聞いてみたら｣

『大切にしていたものを壊しちゃいましてえ…まあ自分が悪いんですけどね。心配かけちゃってすみません、でも大丈夫！すぐに普段通りに戻りますからあ。』

｢だからもしかして、何かハヅキ先生の大事なもの壊しちゃったから喧嘩したのかなって思って…。だから、もしそうならジニア先生のこと許してあげてください！先生凄く悲しそうだったから｣

大切にしていたもの。それは目に見えるもの、手に触れられるもののことではなく、ハヅキとの関係を指しているのだろう。アオイは理解していなかったが、ハヅキにはジニアの言葉の意味が分かった。

｢…心配かけてごめんなさい。大丈夫、ちゃんと仲直りするから安心してね｣

｢ほんとですか！よかったぁ｣

｢ほら、アオイさんもうすぐ休み時間終わりますよ｣

｢あぁ、ほんとだ！！遅刻する！｣

先生仲直り頑張ってね！と手を振って走っていく後ろ姿に｢廊下は走っちゃダメよー！｣と注意しつつも、その声は少し晴れやかだった。