実際にそれは事実であった。学校内での2人のやり取りだけ切り取ったなら、すぐ怒る先生という印象だろうが、ジニアが不在の時の授業中や休み時間などで生徒が質問などした際には丁寧に対応をするし
自分のポケモンは勿論のこと、どんなポケモンにも優しい手つきで撫でてあげたりなどしている光景は数多くの先生、生徒たちが目撃している。
だから、誰も怖いだけの先生だとは思っていなかった。

ニコニコと笑うジニアに困惑し、とりあえず落ち着こうとグラスを傾けたハヅキに「あ、ちなみに」と思い出したように口を開く。

「ボクは前々からハヅキさんのこと、素敵な女性だなあと思ってましたよお？」

「ブッ！！！ゲホッ！は、はい？！」

「ほらあ、ボクって教師になってからそれなりに経ってますけど、未だに生徒さんに強く言うことが出来なくてえ…。だから、臆することなく叱れるハヅキさんの芯の強さとか自分の意思を強く持っているところとか、そういう部分が本当に尊敬できていいなあって。失恋して弱いところにつけ込むみたいで気が引けましたけどお、あんな場面を見て居てもたってもいられなくて」

頬が赤く染まっているのは酔いのせいか、それとも別の理由のせいなのかそれは本人にしかわからない。だが、ハヅキを見つめる視線には熱が篭もっていた。その意味がわからないほど子供では無いが、まさかジニアに好意を寄せられているとは思わなかった。
正直言うと元彼のことは、浮気していたこともあり未練は無い。ただこの急展開についていけないし、ジニアのことをどう思っているのかと言われても同じクラスを受け持ち提出物をなかなか出さない少しだらしない同僚といった印象しかなくて、異性としては意識したことはない。

「す、すみません私はそういう風に考えたことがなくて」

「あ、こちらこそ突然言いましたし、驚かせちゃいましたよねえ。でもハヅキさんが好きなのは本当のことなんでえ」

「好っ……そ、そうですか」

「はあい、なのでこれから沢山アプローチかけていきますんでよろしくお願いしますねえ？」

「え」

ふにゃあと笑いながら言いのけたジニアに、いよいよ思考も停止する。
（今この人サラっととんでもない爆弾を投下しなかったか…？？？）
だけど冗談を言っているようには見えない。そこからの流れは早く、気づけばメッセージアプリの友達登録をさせられていてハヅキの友達一覧に【ジニア】の名前が増えていた。
そしてお開きの時間には｢1人で帰らすのは心配なのでえ、おうちまで送りますよお？｣と言われたが、必死の形相で｢け、結構です！！｣と断りタクシーを拾って帰っていった。