休み時間のアカデミーの廊下から
誰かの怒鳴り声が聞こえてくる。

「ジ〜ニ〜アせ〜ん〜せ〜い！！！！」

「あ、ハヅキ先生お疲れ様ですう」

「お疲れ様ですじゃないですよ！今日提出の書類はどうしたんですか？！
1週間前に念押ししてましたよね？早めの提出お願いしますって、まだ出されてませんけど！」

「ああ〜、すみませえん。まだ書いてないですう」

「はい？！」

「放課後までには出しますのでえ、もう少し待って…」

「いいえ！！放課後には絶対忘れて帰ります。だから、今すぐ書いてもらいますよ！！」

「ええ〜でもお…」

「でももだってもありません！！！
この後、授業まで時間が空いてるでしょう？
だったらすぐ書いてください！！」

ほらほら！と腕を引かれてジニアはハヅキと廊下を移動して行く。
それを見た生徒たちは「いつもよくやるなぁ」と言う顔をしながらそれぞれの休み時間を過ごしていった。

ハヅキは1-Aの副担任。本来は副担任という立場はアカデミーにはないのだが、担任のジニアがたまにフィールドワークなどに行き授業ができない時の代理として、教壇へ立って授業をしている。

元々の性格上、生真面目で曲がったことが嫌いな正義感の強いハヅキは、いつも何かにつけて緩々なジニアに対して少しキツめの態度で接していた。
（ジニア本人はそれに対して特に気にしている様子は無く、説教されている時にもニコニコしているので余計にハヅキをイラつかせているのだが。）
最初こそそんなハヅキとジニアのやり取りに周りの生徒達は驚いていたが、月日が経つと慣れていき何も反応しなくなった。

そして、生物学室の準備室へとたどり着いたハヅキは背中を押してジニアを椅子に座らせた。

「さぁ、書き終わるまでここで見張ってますから。早く書いてください。」

「どうしてもですかあ？ボク、送られてきた図鑑の新規データを確認したいなあって思っててえ」

「お・わ・っ・て・か・ら・に・し・て・く・だ・さ・い・！」

懲りずに言うジニアにイライラが募るハヅキは、言葉を強調して足先で床を鳴らした。
その反応にも動じず、はあいと軽い返事をして書類に手をつけていく。
黙々と鉛筆の文字を綴る音が聞こえてくるだけで、二人の間に会話は無い。
というか、ハヅキ的には口を動かす暇があるなら早く書いて欲しいのだ。
ただでさえ教師としてだけでなく、図鑑アプリの管理もしているのだから人よりも2倍忙しい身。
（だからこそ、なるべくこういう提出物はきちんと出すことを促しているのにこの男ときたら….）
しばらくそうしているとハヅキのスマホロトムが鳴った。
それを取りだして通知を見たハヅキは眉間に皺が寄り、ますます不機嫌になった。
メッセージアプリからの通知には、【ごめん。今日の夜、残業が決まったから会えない】の文字。
相手は現在ハヅキと付き合っている"はず"の恋人で、交際から1年ほどにはなるが最近会おうとしても、何かと理由をつけて断られてしまっていた。

（せっかく何週間も前から約束を取り付けて、夜の食事の予約もしたのに人の気も知らないで…！）

グッとスマホを持つ手に力が入る。

「あのお〜ハヅキ先生？」

「なんですか？もう書けましたか？」

「それはまだなんですけど…その」

スマホロトムが辛そうですよお？と言われてハッとなり、慌てて手を離した。

「ご、ごめんね。つい力が入っちゃった…」

「何か嫌なことでもあったんですかあ？」

「……別になんでもないです。それより早く書いちゃってください」

とりあえず、お店の予約が勿体無いから誰か誘ってみようかと友人にメッセージを送るハヅキに何か言いたそうにジニアは見つめていた。