しがらみは今一度忘れて
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「申し訳無いですが、学校外で2人っきりで出かけるのは他の生徒に見られた際に示しがつきませんので…諦めてください。」
これで何回目だろうか、恋人らしくお休みの日にお出かけがしたいとおねだりをして、同じ言葉で断られるのは。
宝探しのシーズンが終わって生徒達の学校への往来も、以前よりは増えた。
だから、気軽に校長室へ来ることが難しくなったので、少ない時間でもいいから会うことが出来ればと思い、断られる確率が高いと分かっていても誘ってみたのだが………。
念の為に言っておくと私は生徒ではなく、れっきとしたアカデミーの先生だ。
パルデアではあまり認知されていないが、コンテストやミュージカル、ポケウッドなどバトル以外のポケモンのエンタメな知識や技を教えている。
そんな私が、アカデミーの校長であるクラベル先生とお付き合いすることになったのは、ほんとに奇跡としか言いようがない。
最初は紳士的でしっかりしているけど、少しお堅い人だなぁという印象だったのだ。
しかしたまにジニア先生をガミガミ叱っている姿や、かと思えば逆にタイム先生になにかしら注意されている姿を見つけて、意外と人間味がある人なんだなぁと思ってそこから、クラベル先生を学校内で見つけるとじっくり観察することが増えた。
すれ違う生徒一人一人に丁寧に挨拶したり、ポケモンに対してもさん付けで呼んでいたりとか、図書の高い場所にある本が取れなくて困っている生徒をさりげなく助けたり、
お腹を空かせた野生のポケモンにきのみをこっそり上げていたり(その後タイム先生にばっちり見つかって餌付けしない!と怒られていたけど)
細かなところだけど、学校のために色々としていて、
ほんとにいい人なんだなぁと思ってからだんだん少しずつ気になりだして、そして好きになってしまった。
で、玉砕覚悟で告白したら
「ありがとうございます…お気持ちとても嬉しいですよ。
私でよければ、よろしくお願いします。」と、なんと良いお返事を貰ってしまった。
嬉しくて嬉しくて、そこから暇さえあれば、業務の間に校長室へ顔を覗かせては邪魔にならないようにお話をしに行っていた。
それからしばらくして、お休みの日にクラベル先生をデートへ誘ってみたのだが…
断られてしまった。
忙しかったのかな?と思ってその日は納得したが、2回、3回と続くとさすがにおかしいと気づき始めた。
(あれ、もしかして、わざと断られてる?)
そして今日、もし断られたらちょっと食い下がってみようと思ったのだ。
「どうしてもダメですか?」
「はい」
「街にお出かけじゃなくてもいいんです。何処かの自然の中で…ピクニックとかでも」
「意外とそういう場所で生徒と出会うこともありますからそれも…」
「…夜遅くに出かけるのは…」
「毎回ですと授業に支障をきたす可能性があります」
「………私の部屋かクラベル先生の部屋は」
「部屋に向かうところを見られたら大変です。」
「…………………」
ことごとく却下されて、どんどん気落ちしてきた。
はぁ…とため息をつき、眼鏡を抑えながらクラベル先生は続ける。
「ハヅキ先生に我慢をさせてしまっているのは申しわけないと思っております。ですが、校長と教師の立場でもありますから………今まで通り、ここで会って交流を深めていくのではいけませんか?」
「………わ、かりました……しつこく聞いててすみませんでした。」
そう言って私は椅子から立ち上がり扉の前へ移動する。
いつもならその後何事も無かったようにお茶をしながら会話をするが、今日はそんな気にならなかった。
私のそんな姿を見て、クラベル先生は引き止めてくる。
「ハヅキ先生?帰るにはまだ早いのでは…」
「ごめんなさい。ちょっとやらないといけない業務を残してたのを思い出したので、すぐ戻らないと……」
「…そうですか、気をつけて戻ってくださいね」
「はい…」
(その気をつけてはどっちなんだろ…)
校長室から出て、少し歩いた所で足が進まなくなって思わずその場で座り込んでしまう。
先生同士の恋愛がダメな訳ではない。
ただ、一方は校長先生だ。頻繁に2人でいる所を見た人間が、あの教師は校長に擦り寄って、取り入ろとしているのでは?等と邪険な考えを持つ者も出てくるかもしれない。
そうなった時、矢面に立つのは私だろう。
それを危惧して、敢えて人目を避けて会うことにしているのは何となく分かるけど……。
「欲張りなのかなぁ…私って……」
先生とか立場とか年齢とか、気にせずに、2人でのんびりお散歩したり、美味しいご飯を食べたり
綺麗な景色をみたり…手を繋いだり、抱き合って…キスもしたり……それ以上も……
時々、教室で生徒たちが恋バナをしているのを聞いて羨ましく思う時もある。
あの子たちは、何も気にせずにデートができる…それに比べて私は……
(こんな風になるくらいなら、好きにならなければよかったのかな…)
悪い方向に段々考えてしまって、ますます落ち込んでしまう。
幸いにも今は授業中なので人の往来はない、
こんな情けない姿を他の人に見られる事はない……はずだったのが。
「ハヅキ先生?!」
「?!」
振り返ると、そこにはクラベル先生が走り寄って来ていた。
「どうしましたか?もしかして、先程から具合が悪かったのですか?」
「あ、いえちょっと考え事をしてて…」
「………ただの考え事だけで、こんな廊下の真ん中にしゃがみこむ人はいないと思います。ひとまず医務室に行きましょうか?」
「だ、大丈夫です」
「ですが…」
「本当に大丈夫ですから!お願いですから、ほっといてくださいよ!!!」
「………!」
「あっ…………」
最悪だ、心配してくれてるのに八つ当たりみたいに怒鳴って…
「私、…ご、ごめんなさい」
「………とにかく場所を変えましょう、このままだと目立ちますので。」
促されて、再び校長室へ戻ってきてしまった。
椅子に座らされて、クラベル先生も隣に座る。
「ご気分はどうですか?」
「……ちょっとだけ、落ち着きました」
「そうですか、良かったです。」
「……………」
「……………」
き、気まずい…何話せばいいんだろ…
でもまた余計なことを言いそうで、何も言えない。
段々クラベル先生の顔を見るのも怖くなって、俯いて膝に置いた手をぎゅっと握りしめる。
すると横から自分より大きい手が私の手を取り、優しく包み込む。
「…っ」びくっ
「…ハヅキさん、こっちを見てくれますか」
「えっ…」
今まで"ハヅキ先生"としか呼ばれたことがなかったので、びっくりしてクラベル先生の方を思わず見てしまった。
そこには眉を八の字にして、申し訳なさそうな表情のクラベル先生がいた。
「すみません、こんなことを聞くのは如何なものかとは思いますが
自惚れでなければ、考え事とは私のことでしょうか?」
「………(コク)」
黙って頷く。
「ずっとお互いの為だと思って、今まで貴女の要望を断ってきましたが…
そこまで追い詰めてしまっていたとは知らず、申し訳ございませんでした。
…………実のところ、貴女から告白された時、本当は断ろうとしました。」
(え……)
全身に衝撃が走り、胸が激しく痛んだ。
じゃあ、どうして受け入れたの?
その気がないのに、同情から付き合ったの?
だから好きでもない私と一緒に出かけたがらなかったの?
(そうだ…そういえば私、1回も好きとか言われたこと無かったや……そういうことなんだ)
だったら、そんなことなら、最初から期待させるようなことを言わないで欲しかった。
こんなの、惨めすぎる。
全部喚いて、叫んで吐き出してしまいたかった。
でも、喉がきゅっと締まったかのように声にはならない。
色々頭をぐるぐる巡り、じわりと涙が出てきた。
泣いてる姿を見られたくなくて再び顔を伏せる。
「でも、それ以上に嬉しくてですね……年甲斐もなく舞い上がってしまいました。
結果的に自分の首を絞めることになってしまいましたが……
それでも、ハヅキさんと結ばれたいと…
そう思ってしまって、気づいたら手を取っていました。」
包み込んでいた手は、私の手を取り
自身の口元へと持っていって
私の指へ優しくキスをした。
「私は怖かったんです。周りからの目や声が…それによって、貴女の心が私から離れていくのでないかと……
折角誘っていただいたのに、なんだかんだと理由をつけて断ってしまった。
でも、自分から手放す事もしたくないなどと欲深い部分もあって………
そして、貴女を酷く傷つけました。
本当に情けない…こんなの校長としてだけでなくハヅキさんの恋人としても失格ですね」
嘲笑を浮かべるクラベル先生の手は微かに震えている気がした。
知らなかった。
悩んでるのは私ばっかりだって、そう思ってたのにクラベル先生も私のことで沢山考えてくれてたんだ。
……私たち、お互いに嫌われるのが怖くて、本当に言いたいことを隠しあってたんだ。
「ずっと、私だけが好きなんだとばっかり思ってました」
「そんなことは…」
「だって今まで好きだとか言われたことがなかったですし、それにクラベルさんいつから私のことを気にかけてくれてたんですか?」
「…………以前、授業の一環でグランドを使って、コンテスト用の技の出し方を披露された時のこと、ハヅキさんは覚えていますか?」
「え?えぇ、ありましたねそんな事も…」
「その時に、はなびらのまいの中で貴女がポケモンと一緒に笑顔で踊っていたあの光景…まるで1枚の絵画のようで、美しくて………思わず見蕩れてしまいました。」
そう言ったクラベルさんは照れくさそうに
眼鏡をくいっと押し上げる。
ちらっと見えた耳が少し赤くなっているのが分かった。
なるほど、どこかからあの時の授業を見てたんだ…
(あれ?でも、それって私が赴任してすぐの出来事だった気が………)
「つまるところ………ほとんど貴女と出会ってばかりの頃から懇意にさせていただいてました。」
「う、嘘……」
「信じられないとは思いますが、本当なんです……自分よりずっと年下の女性に心を惹かれてしまっているんですよ…」
「………っ」
再び手を引かれて今度は手の甲にキスをされる。先程よりも唇の感触が伝わり、ドキドキする。
「でも、私は校長ですし歳も離れています……だからこの気持ちは伝えてはいけない、知られてはいけないと…隠していました。」
まさか貴女の方から告白されるとは思いませんでしたけどね。とクラベルさんは微笑みを浮かべる。
「……すごく悩みましたよ、私のことどう思ってるのかとか…本当に好きなのかとか……」
「すみません、不安にさせてしまって」
「でも、もう大丈夫です。十分伝わりましたから…私の方もしつこく誘ったりしてすみませんでした。
もうわがまま言わないので、これからもここでクラベルさんとお話したり…たまにこうやってスキンシップも取りたいです」
私も真似てクラベルさんの手を取り、指を絡めキスをする。
好きな人と手を繋ぐだけで、人ってこんなに幸せな気持ちになるんだなぁと思っていると
「………お出かけしてみますか?」
「…………ぇ?」
「今度の休み…どこかへ行きましょう」
「え、あ、い、いいんですよ?もう、デートの事は我慢できますから」
「いえ、我慢しなくていいんです。
もし誰かに見られたとしても、例え何かを言われたとしても私がハヅキさんを絶対守ります。
だから、何も気にせずに外へ行きましょう。
私も貴女と色んな所へ行きたいですから。」
「クラベルさん…」
「ハヅキさんはどこへ行きたいですか?」
「え、えっと……セルクルタウンのムクロジの新作のお菓子を一緒に買って食べたり……ボウルタウンのアートを見に行ったり…」
「はい、いいですね」
「自然が一望できるような綺麗な場所…でピクニックも、したいです……一緒に……サンドウィッチ作ったり、とか、お茶を飲んでお、お話したり……」
「楽しいでしょうね、ポケモンたちも連れていきましょう」
「あと、は…お家、で、デート……でのんびり、したり……ぐすっ…ハグしたり、とか…キスと、か……そういう、ん…ことも……たくさん、ずずっ……したいです……」
「…………はい…」
いつの間にか溢れていた涙を優しく掬い取り、頬に手が添えられる。
クラベルさんの顔が近づいてくるのを感じて、私は目を閉じた。
キスが終わったら
今度のお出かけの計画を一緒に立てよう。
年の差とか肩書きとか立場とか、
そんなしがらみは今一度忘れて。
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