【クラベルの場合】

読書中にふと、自分の髪に違和感を感じて隣を見るとクラベルさんが私の髪を触っていじっていた。

「あの、クラベルさん？」

「ん、おや。すみません、邪魔をしてしまいましたか？」

「いいえ。というか、私こそ一緒にいるのに夢中になりすぎました。」

本を閉じてクラベルさんに向き直る。
もしかして枝毛でもあったのかと、自分でも髪を確認するが特に見つからなかった。

「クラベルさん、私の髪になにか付いてました？」

「あぁ、違うんです。その…」

少し言い淀んでから続けた。

「風に揺れる貴女の髪が綺麗でつい触れてしまいました。
お付き合いしてるとはいえ、不躾に何も言わずに触れてしまって申し訳ありません。」

しょぼんとした姿に軽く胸がきゅんとなる。自分より年上の男の人に可愛いという表現は似つかわしくないのかもしれないけど、そう思ってしまう。

「クラベルさんにならいくらでも触って欲しいなと思います。」

「……その言い方は良いように捉えてしまいますが？」

してくれて構わないですよと、微笑んだら「困った方だ」と私の手に自分の手を重ねて笑い返した。

（意中の相手の髪を触るのは、可愛らしいや相手のことを深く知りたいという意味）