帰りの道中お互いに話すことも無く、歩いていく。正直、なんて言葉をかければいいか分からなかった。髪を切られたなんて女性にはショックな出来事だろうし、あの女があんなことをした原因も元々は自分が発端にはなっているわけで
（ハヅキさんに恨まれてもしょうがない…か）
ちらと隣りの彼女を見る。
前髪は切られた所が分からないように、残った箇所を流してピンで止めて隠していた。

「あ、アオキ…さん」

「…っ、はい、なんですか？」

意外にも沈黙を破ったのはハヅキさんの方からだった。この後に続く言葉に緊張しながら話すのを待つ。

「た、助けて、い、いただいて…ありがとう、ご、ございました」

「え？」

「あ、あのま、まだったら…前髪、い、以外も切られる、ところでした…から。………そ、それ、に………ぅ、れし、かったです」

そこまで言って、彼女は足を止めた。釣られて自分も立ち止まりハヅキさんの顔を見ると、頬がほんのり染まっているのが分かった。

「嬉しかった？」

「……あ、あの、時、怖かったん、ですけど。アオキさんが、き、来てくれて…安心、しまし、た」

「そんな…危ない目に遭わせてしまったのに」

「アオキさ、んは悪く、あ、ありませんから…気にしない、でください。……こ、この機会に、折角だから前髪……み、短くしてみます。似合うか、わ、分かりませんけど」

そう言って控えめに微笑んだその姿に胸がつまった。誰かを責めてもしょうがない事態なのにそれをしようとしないなんて。
いじらしくて、どうしようもなくて愛しさが募る。

「あの……帰る前に、少しだけ時間を貰ってもいいですか？」

「……？は、はい」

「ありがとうございます。」

近くにあったベンチへ一緒に座り、自分は背筋を正して話し始める。

「色々言いたいことは沢山あるんですけどハヅキ、さんに聞きたいこともありまして」

「な、んですか？」

「……その、さっき言ってましたよね自分があの場へ来た事に安心したって……それは、他の人よりも親しい人間だったからですか？それとも…期待していいんですかね？」

「……………」

「こんな聞き方ずるいとは分かっているんですけど……貴女の気持ちが知りたくて」

ベンチから立ち上がり、座ったままのはづきさんへ向き直る。顔には出ていないとは思うが心臓は早鐘を打っていて、手汗をかき始めていた。その手をぎゅっと強く握り締めて話を続けていく。

「色々と格好つかなかったり、情けない姿を見せてきましたし、
これから先も……正直そういう所は出てくるとは思いますが、貴女のことは絶対守ります。それだけは約束します。

改めて言わせてください…ハヅキさん、貴女のことが好きです。」