そして、少しでも意識してもらえたらと朝昼とハヅキさんに出くわした時には、
必ず挨拶することを忘れなかった。
会話の練習もハヅキさんは成果が得られなくてしょげていたが、ずっと会うことができるからこのままでもいいのにとそう思っている嫌な自分もいた。
以前1回だけ金銭面（自分の財布を気にしてれて）を理由に断られそうになったが、なんとか言いくるめたこともあった。
焦って返信したせいで淡々とした文面になったことは申し訳ないが、
それくらいいつもハヅキさんが相手になると余裕がなくなって必死なってしまうのだ。

ある日、日課になっていた挨拶をしにハヅキさんのデスクへと向かうと紙袋を差し出された。
聞いたら日頃のお礼にとおにぎりを握ってくれたそう。不安そうにしていたが、好きな人が握った飯が美味くない訳がない。
食べるのも勿体ないと思う自分もいたが、結局空腹に負けて昼に頂いたが大きさも味も申し分なく、腹だけでなく心も満たされた。
（また食いたいな……。）

おにぎりを貰った当日の夜、自分は珍しく先に宝食堂の前でハヅキさんを待っていた。
そうしたら彼女の小さい悲鳴とドサッと倒れる音が耳に入り、見ると道の脇の方で座り込んでいるハヅキさんの姿が。
キョロキョロと何か探している様子に居てもたってもいられず、ハヅキさんに駆け寄る。
声をかけた彼女が自分を見上げたとき、心臓が止まりかけた。

長い前髪の隙間から見える瞳が、街灯に照らされてキラキラとテラスタルのように輝いていた。
（いや、綺麗すぎんか？？？？？）
無意識に抱きしめかけて、思いとどまる。
（いかんいかん、付き合ってる訳でもないのに危うくセクハラになるところだった。）
理性を保つためにハヅキさんの肩を強く掴んでしまったが、気遣う余裕もなくメガネをどうしたのか聞く。
転んだ拍子に落としたとの事で、見回したらハヅキさんから少し離れたところにあった。
それを手渡したがフレームが歪んでしまったようで、新しい物を買わないとと嘆いていた。（これは休みに会えるチャンスなのでは…？）
そう思ったらそこからは、次の日の休みに会う約束を（無理やり）つけていた。

迎えに行くからと住所を教えてもらい、はづきさんの家へと向かう。
玄関の前でメッセージを送った後、少し経ってからハヅキさんは出てきた。
初めて見た私服姿に感嘆の声が漏れる。
ふんわりしたワンピースに薄手のカーディガンを羽織って、彼女にとても似合っていた。