そして、その日は私の仕事が少しだけ伸びてしまい、アオキさんに夜のご飯に遅れる旨を伝えて私は宝食堂へと急いでいた。
ただでさえ私の都合に合わせて会話の練習をしてくれているのに、遅刻してしまうなんて言語道断だ。
チャンプルタウンへ下ろしてもらったタクシーの運転手にお礼を言ってから走って宝食堂に向かう。入口の端で佇んでいるアオキさんの姿が見えてほっと息をついた時、気が緩んでいたせいか脚がもつれて転んでしまった。

「あっ！」ドサッ

受身を取ることも出来ないまま盛大に転んだ私を周りの人はちらりと見ながら素通りしていく。恥ずかしいし、転んだ拍子に掛けていたメガネもどこかへ落としてしまった。ぼやけた視界の中、地面に手を這わせてメガネを探すが見つからない……。
しかも暗くなっていたから余計分からなくて、困っていると「ハヅキさん！」と聞き覚えのある、だけど聞いた事のない声量で私の名を呼びその人は近づいて来て目の前で跪いた。

「あ、アオキ、さん……ですか？」

「はい、大丈夫ですか？！怪我はありませんか？」

「は、はい…なん、とか」

メガネがないおかげか、いつも見れないアオキさんの顔（がある場所）を見つめて答える。すると、アオキさんは一瞬固まった後ガッと私の肩を掴んだ。

「ひょ！？！あ、え…？ど、うかしまし、た？」

「………………………メガネは？」

「……え？あ、さ、さっき転んだ時に…落とした、みたいで……」

「なるほど……あ、ありましたよ。」

少し離れた所に転がっていたメガネを拾い上げて手渡してくれたことにお礼を言って、メガネをかけるが何か違和感がする。
1度外して目を凝らして見ると、落とした衝撃でかフレームが歪んでしまっていた。

「あっ…」

「どうしました？」

「ふ、フレームが……歪んで、しまった、みたいで…」

「おや、災難ですね。」

「とり、あえず、きょ、今日帰るまでは、これをかける、しかないですね……はぁ……あ、明日までに…新しく、か、買い替えないと…」

「…………あの」

ちょうど明日が休みで良かったと、一息ついているとアオキさんに声をかけられた。

「その買い物に自分もついて行ってもいいですか？」

「んぇ？！ど、ど、どうしてです、か？」

「壊れた原因は自分にもありますし、視界が悪い状態で1人で外に出るのは危険ですから、付き添いますよ。」

「で、でも…明日、アオキさ、んは、や、休み…なんですか？」

「はい、ちょうどよく自分も休みです。」

どうせやることも無いのでお供しますよ、と付け加えて言うアオキさんの言葉に何故か断れなかった。