営業課所属の人見知りで根暗なOLと非凡のサラリーマンの話【後編】
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あの日以来、アオキさんと顔を合わせる機会が増えた気がする。話の限りでは営業の仕事終わり…それも残業がない日の夕食の時間だけ会話の練習をするという話だったはずなのだけど、
何故かオフィス内や廊下、お昼の時には食堂にも出くわして挨拶をしているのだ。
どれもこれも「おはようございます」や「お疲れ様です」など一言のみのものだったが、それでも今までほとんど会うことがなかったのが嘘のようにほぼ毎日接触している。
そして肝心の会話の練習の方だけども、中々成果が出てる気がしなかった。
アオキさんから話題を振られても、それに答えるだけなのにやっぱり目を見て話すのに緊張して俯いて返すしか出来なくて、何気ない質問にも返すのに5分くらいかかるのもザラだった。
正直これだけやってもダメなら、匙を投げなれても仕方ないと思うんだけどアオキさんは特に何を言うでもなく、定時前にメッセージを送ってくる。
(連絡先も最初の頃に流されるまま交換してしまった)
『今日の夜、空いてますか?』
『はい』
『でしたらまた宝食堂の前で』
『分かりました、お気をつけて』
メッセージでも味気ない返信をする。
可愛げがある女の子であればスタンプや絵文字の1つでも付けるのだろうけど、そこまで親しくもない人間からそんなの付けて送られても困るだろうし。
でも1回はきちんとしたお礼をしないといけないなと思う。
奢られてばかりだったので、1回アオキさんの金銭面を気にして断ったことがあるのだが
『稼ぎに関しては他の人よりはありますから安心してください。奢ろうとも考えなくて大丈夫ですので。』
と返ってきて、もしかしたらアオキさんのプライドを傷つけてしまった?
稼ぎの低い男だと思われて、嫌な気分にさせてしまった…?とさっと顔が青ざめていき、慌てて『すみません、気分を害してしまいましたか?』と返したらすぐに
『こちらこそ嫌な言い方になってすみませんでした。ハヅキさんはお金のことは気にせず来てくださいお願いします。』
こんな風に送られてきてしまっては私の性格上断れない。
そこからずっとアオキさんとよく分からない関係が続いていた。
ある日、ほぼ日課になっていた朝の挨拶の時私は持ってきていたものを手渡した。
「おはようございます」
「お、おはよう、ございます………あ、あの………こ、これ…」
「……これは?」
「おにぎり…です…えっと、お、昼によかったら……食べ、てくださ…い」
自分に出来ることと考えた結果、よく食べるアオキさんにおにぎりを作ることだった。
何か別のものを贈ろうかと考えたが相手の好みも分からないし、私にプレゼントのセンスがある方だとも思わなかったので料理にしてみることに決まった。
それに凝った料理を作るより、アオキさんには慣れ親しんだものだし食べやすいかなと思ってシンプルなおにぎりにした(具はおかか、こんぶ、シーチキンマヨ。)
アオキさんが人の作ったものが苦手ならやめておこうかなと思ったけど、
前に別の人が作ったお菓子を貰って食べてたのを見た事があるし、もし断られても自分のお昼にしてしまえばいいやと考えて朝から作ったのだった。
幸いにも私の席はオフィスの隅っこの目立たないところだったから、他の人は私たちのやり取りには気づいていない。
だから受け取る気持ちがあるのなら、早く取って欲しい。
アオキさんの反応を見るのが怖くて、相変わらず俯きがちにおにぎりの入った紙袋を差し出たまま固まっていると、紙袋が自分の手から離れていった。
「…ありがとうございます、頂きます。」
「(良かった…受け取ってくれた…)え、えっと……お、お仕事、頑張って….くだ、さい。お気をつけて…」
「はい、行ってきます」
アオキさんはそう言うと真っ直ぐ営業周りへと向かって行った。
おにぎりがアオキさんの口に合えばいいなと、心配になりながら私も業務へと戻った。
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