テーブルシティの人通りが少ない場所にぽつんと、小さな花屋がある。
そこの店先で、植えている花に如雨露で水を与えている女性が1人。

「♫〜〜」

ご機嫌に鼻歌を歌いながら、露でキラキラと光る花をみて嬉しそうにしている。
エプロンワンピースに身を包んだ彼女の名前はハヅキ。

大通りから離れているせいか周りには人の往来が少なく、人々の賑わう声が遠くから聞こえるくらい彼女の周りは穏やかな時間が流れていた。そこへ、1人の少年が訪れた。

「あ、あの！」

「…！あら、貴方は」

「こ、こんにちはハヅキさん」

「こんにちは"アクジ”くん」

学校指定外の上着に白いキャップを身にまとった学生が、ハヅキに声をかける。
そわそわした面持ちで挨拶する学生に、笑顔で返事をするハヅキ。
"アクジ”と呼ばれた少年は一瞬顔を歪めたが直ぐに「花…またください」とキャップのつばを提げながら注文した。
そんな少年の様子に気づかず、にこにこ笑顔のまま「かしこまりました！」と如雨露を邪魔にならない場所へ置いた。

「今日はどんなのにしようか？」

「え、えっと…ガーベラとアネモネと…マーガレットをお願いします」

「はい、わかりました。じゃあちょっと待っててね」

指定された花を複数選んで小さな花束にしていく。
黙々と作業をするハヅキを手持ち無沙汰にしながら少年は見つめていた。
可愛くラッピングし終えた花束を持って外で待っていた少年の元へと駆け寄る。

「お待たせしました、こんな感じで大丈夫かな？」

「は、はい！大丈夫です！」

「ふふふ、お買い上げありがとうございました」

「あ、あのハヅキさん！」

「うん？」

「え、えっと………なんでもないです」

「……？またのお越しをお待ちしてます
"アクジ”くん」

「……はい、また来ます。」

なにか落ち込んだ様子でとぼとぼと歩いていく少年の姿をひなたは首を傾げながら見送った。

少年の本当の名前はピーニャ。花屋のハヅキに絶賛片想いをしている。