エントランスに響くくらいの大きい声と、バタバタと走る音に周りの生徒たちもそちらに目線がいく。
アオイたちも音の元に視線を動かすと、クラベル校長がいつも見せないような焦った表情でジニア先生とハヅキと呼ばれた女性の元へ駆け寄っていた。

「まぁ、あなた！ここは学校ですよ？校長である貴方が生徒たちの前で校内を走っては示しがつかないじゃないですの。」

「す、すみません…思わず…」

「まったく…はい、こちら頼まれていた書類です。」

「ありがとうございます。取りに戻る時間もなかったので、助かりました…」

（（ク、クラベル先生の奥さんだったんだ？！！））

奥さんに注意されたクラベル先生がしょぼんとしながら書類を受け取る。
ふぅと一息ついて、奥さんは表情を和らげる。

「それで急だとは思いますが、せっかく来たのだしアカデミーを見学したいのですけどよろしいかしら？邪魔にならないようにしますから…」

「えぇ、大丈夫ですよ。良ければ付き添いますが」

「あら、これから職員会議があるんではなくて？」

「………」

「あ、じゃあ僕が代わりに案内しましょうかあ？」

「貴方は授業があるでしょう！」

「ええ〜久しぶりに会えたからお話したいですよお」

「ジニアくん、クラベルさんを困らせちゃだめですわよ？」

「ふふふ、すいませえん」

「はぁ………ハヅキさん、会議が終わるまで待っていただけますか？」

「えぇ、ここにある本を読んで待っていますわ」

「すみません、ありがとうございます。」

「クラベル先生相変わらず、ハヅキさんのこと大好きですねえ〜。」

「ジニア先生！」

にこにこと二人を見ていたジニア先生の言葉に、余計なこと言わないでください！と耳を赤くしながら言うクラベル先生のいつもと違う一面をアオイとボタンはしばらく見つめていたが、
予鈴のチャイムが鳴ったのに気づき慌てて怒られない程度の小走りで2人は教室へと急いだ。

「はぁ、なんかレアポケモン見た気分…」

「そうだねぇ、また奥さんに会ったらちゃんとお話してみたいなぁ、たくさんおしゃべりした〜い」

「コミュ力お化けかよ…それにしても、校長先生って愛妻家だったんだね」

「え？」

「校長の奥さんに怒られて落ち込むとことか、校内の見学に自ら付き添いしようとするとか…」

「でも、タイム先生にも怒られてる時あるし、校長先生って誰にでも優しくない？」

「はぁ〜わかってないなぁ、アオイは」

「えぇー？」

イマイチ理解していないアオイに溜息をつきながら、あのねと続ける。

「さっきジニア先生が代わりに〜って言った時の校長先生の顔みた？」

「うーん、見てなかったかも…」

「むって拗ねた顔してたんよ、妬きもちってやつ？そんな顔するくらい好きなんだぁって」

「へぇ〜よく見てるねボタン」

「まぁ、それくらい魅力的な人なんじゃない？あのハヅキさんって人」

「校長みたいにバトル強いのかな？」

「ネモみたいなこと言わんでもらっていいかな？」

本気なのか冗談なのか分からないことを言われて、思わず突っ込みながらボタン達は目的の教室に無事到着したのであった。